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社説・コラム

ウクライナに願い カトリック広島司教区司教 白浜満さん/浄土真宗本願寺派西善寺住職 小武正教さん

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってまもなく1カ月がたつ。広島県内の僧侶や聖職者たちも、平和を願う集いや抗議活動など、それぞれの立場から行動を起こしている。2人の宗教者に、活動に込めた思いを聞いた。(山田祐)

カトリック広島司教区司教 白浜満さん

非難の声上げ 共に祈る

 2日、ウクライナに向けて平和への思いをささげる集いを、幟町教会(広島市中区)の世界平和記念聖堂で開いた。地元NPO法人との共催で、現地出身の市民を含む85人が参加した。8日には、教区内の教会と修道院、系列の学校に、ウクライナの人々のための募金を呼び掛けた。

 集いにウクライナ出身の方が来てくださったことに感謝しています。頭を垂れて祈りをささげる姿や、祖国を思う言葉から、現地にいる親御さんたちを思う悲痛な心が伝わってきました。

 ウクライナでは、キリスト教のウクライナ正教徒が大多数を占めています。教派は違ってもキリスト教国。兄弟姉妹として、現地出身の人とお祈りができたのは意義深いです。

 現地の写真や映像が連日報道されます。地下鉄の駅に身を寄せ合う人々、隣国に懸命に避難する姿―。小さな子どもも犠牲になっています。この子たちが、どんな悪いことをしたのでしょうか。どうしてこんな目に…。いたたまれない思いでいっぱいです。

 核による威嚇も言語道断。ロシアは国連の常任理事国です。核兵器を保有する常任理事国が戦争を起こしたとき、誰がどうやって止めるのか。その問題が浮き彫りになっています。

 2019年に広島を訪れたローマ教皇フランシスコは、核兵器の使用のみならず、「核兵器の保有はそれ自体が倫理に反しています」と述べました。それこそが真実だと思います。

 核の脅威を絶つためにも、まずはロシア軍による侵攻を一刻も早くやめさせなくてはいけません。遠く離れた日本にいる私たちにも、できることが三つあると思っています。

 まずはお祈りをして神様の助けを願うことです。なぜならば、人間の心に働き掛けて正しい道を示してくださるからです。どうか、プーチン大統領には神の助けを受けて我(われ)に返っていただきたい。私たちにできるのは、何とか彼に改心してもらえるよう連帯して祈ることです。

 二つ目が、今、ウクライナでどれほど非人道的なことが行われているのかを訴えることです。広島や長崎、日本の各地から非難の声を上げる。人間として良心に照らしたときに、とても恐ろしいことが起こっているのだと強く発言することです。

 三つ目は、苦しんでいる人々のための物質的な支援です。私たちも中国5県の信者の皆さまと募金に取り組みます。

 ロシアの為政者に思い出してほしい言葉があります。「隣人を自分のように愛しなさい」。新約聖書のマタイ福音書にあるとても大切な教えです。

 平和を壊すのは武器ではありません。人間の心です。プーチン大統領の心の中にあるものが、兵士や武器を動かしているわけです。同じ人間として、弱い立場に置かれている人たちを思いやってほしい。人々の苦しみや叫びに共感する立場に立ってほしい。

 為政者として、平和を、人を愛する気持ちをもう一度取り戻してもらいたい。武器や核兵器で人を犠牲にして、その上に自分よがりの平和を築いたとしても、それは真の平和ではありません。

 一日も早くこの危機が終結しますように。私たちもお祈りを続けていきたいと思います。

しらはま・みつる
 1962年、長崎県生まれ。90年に司祭に叙階され、日本カトリック神学院(現在は東京カトリック神学院と福岡カトリック神学院に分離)院長などを経て2016年9月から現職。

浄土真宗本願寺派西善寺住職 小武正教さん

痛みに共感 連帯しよう

 広島県内の仏教の僧侶やキリスト教の聖職者たちに連帯を呼び掛けて7日、ロシア軍への抗議集会を広島市中区の原爆ドーム前で開いた。知人を介して参加者を募ったところ、市民有志も含めて約30人が集まった。今後も宗派を超えての集会を開き、停戦を求め続ける。

 「もし私が仏となるときには、私の国に(中略)戦争、貧困、差別という人間を否定する世界がないようにしたい」

 仏説無量寿経の一節を私なりに解釈して現代語にしたものです。7日のロシア軍への抗議集会のときに、みんなで唱えました。

 集会に30人以上もの人に集まっていただき、驚きました。準備の段階では、その半分くらいかなと思っていました。理念に共感した人が人を呼んでくれて。本当に勇気づけられました。

 ロシア側の核による威嚇は、世界の人々を人質に取るのと同義です。連想するのが、仏説阿弥陀経に出てくる「共命鳥(ぐみょうちょう)」です。お浄土にすむといわれる、二つの頭がある鳥です。それぞれの頭がお互いに相手の存在を否定し合い、片方の頭がもう一方に毒を飲ませます。体は一つなので、結局両方とも死んでしまう。争い合うことの愚かさを説きます。

 これをプーチン大統領にぜひ伝えたい。核兵器を使えば、相手の国だけではなく地球そのものに深い痛みをもたらし、自分自身の死を招くことを、もう一度考えてもらいたい。

 核の問題は世界全ての人に関わることなのです。広島と長崎で、被爆の苦しみを背負わされた日本から声を上げることは本当に大切です。今回も市民団体や被爆者の方たち、いろいろな立場の人々が行動を起こしていることに背中を押してもらっています。

 政治的な背景は、きっと複雑なんだろうと思います。でもどんな事情があろうと、武力の行使は決して許されません。この侵攻を一刻も早く終わらせる必要があります。

 倶会一処(くえいっしょ)というお釈迦(しゃか)様の教えがあります。「誰もがともに生きる世界に帰っていける」ということを教える言葉です。平和を願う全ての人は必ず一つになれる―。私はそう解釈します。今を生きる上で、連帯して手を取り合う。それがいかに大切か、ということだと思っています。

 私が自分の身をさらして各地の侵攻や戦争に反対を表明し続けるのはそのためです。慣れていない人にしてみれば顔を出して街頭に立つのは抵抗があるかもしれません。でも、みんなが立ち上がって声を上げる行動こそが、平和を実現するための道なんです。

 今は会員制交流サイト(SNS)などネットが発達した時代です。世界中で連帯すれば、必ず思いは現地の人、ロシアの為政者にも届くと信じます。

 大切なのは痛みの共感です。命を奪うことの愚かさ、奪われることの痛みに想像力を働かせて思いを寄せていく。プーチン大統領自身が気付かなくてはいけません。

 ウクライナの皆さんは、今この瞬間も不安と恐怖の中で過ごしておられると思います。そして、世界の人たちは一日も早い停戦を願っています。だから私は声を上げ続けます。それが少しでも現地に届いてほしいと願います。

おだけ・しょうきょう
 1957年、三次市生まれ。龍谷大(京都市)在学中に得度して僧侶になり、23歳で実家の西善寺住職となる。僧侶有志でつくる念仏者九条の会の共同代表を務める。

(2022年3月21日朝刊掲載)

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