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被爆の記憶継承 課題探る 広島文教大生2人が卒業論文 教員取材や伝承者に密着

 広島文教大(広島市安佐北区)人間科学部4年の学生2人が、「被爆の記憶継承」をテーマにそれぞれ卒業論文を書いた。熊田絢さん(22)は母校の小学校の平和教育を、大野智子さん(22)は市の被爆体験伝承者の養成事業を調査。ともに、次世代に被爆体験を受け継ぐ難しさを指摘している。

 爆心地から最も近い本川小(中区)を卒業した熊田さん。被爆証言を聞くことに加え、平和の大切さを訴える音楽劇の上演など多様な経験をしている。その当時の教員たちを訪ね、平和教育についての考えを聞き取った。

 熊田さんは一連の教育を、原爆や戦争について知る契機になると評価する一方、課題も見いだした。「教員の主眼は平和を願う児童の育成。平和を大切にするという『答え』を用意し、導きがちになる」。重要なのは被爆者の証言を受け止め、原爆投下に至る背景を知ろうとする過程。その中で、平和とは何なのかを自分なりに模索することが大切、との問題意識を込めた。

 大野さんは南区出身。被爆者の祖父は、記憶を決して語ろうとしないという。被爆者が証言を次世代に託す姿が、祖父の姿と対照的に思え、被爆体験伝承者に興味を持った。被爆者の語りを聴き、講話の内容を練り上げる過程に密着した。

 伝承者が被爆者との信頼関係を築き上げ、「伝えよう」との思いを深めていくことに強い印象を受けた。同時に、行政のチェックを受けながら、もっぱら被爆直後の記憶を中心に講話が構成される点には「戦後の人生を通じた苦しみや葛藤を聞き手が想像する上で、整理され過ぎた話では一人一人の体験の重みが伝わりにくくならないか」と課題も感じた。

 2人とも、これまで漠然と「平和が大切」と思っていたという。広島の近現代史を研究する仙波希望講師(都市社会学)のゼミで「前提」を問い直すことを学んだ。教員を目指し4月からも勉強を続ける熊田さんは「平和の大切さを訴える前に、知識を得て考えるべきことがたくさんある」と思いを強める。(田中謙太郎)

(2022年3月21日朝刊掲載)

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