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社説・コラム

『美術散歩』 コロナ禍の日常や戦争の影

◎ヒロシマ・アート・ドキュメント2021 24日まで。広島市南区本浦町、半べえ

 1994年に始まったヒロシマをテーマとする現代美術展。28回目の今回は、戦前からの歴史を刻む茶室を舞台に、コロナ禍の日常や戦争の影を映した作品が集う。

 国内外の作家3人が計5点を出品している。東地雄一郎(東京都)「A=A A≠A(building)」は、広島県産業奨励館(現原爆ドーム)の古い写真を繰り返し複写した2千枚のコピー用紙を、五つの木箱に分けて展示。均整のとれた西洋建築はささいな変化を積み重ね、枝をもがれた樹木のような姿に変わり果てる。その様は記憶の風化を連想させる。

 的場智美(広島市)の映像作品「散歩道」は、作家自身が近所を歩きながら撮影した風景写真をスライドショー形式で障子に投影。茶室というミニマムな空間と、コロナ禍で見つめた日常の映像が共鳴する。中国5県の地図に第2次世界大戦の激戦地を重ねた「亜細亜群島」も展示する。

 枯れ山水に通じる美を感じさせる白い石こうの彫刻群は、ミャンマー出身のアウンコの作品。尾道市で滞在制作をしたこともある作家だが、現在は軍事クーデターが起きた母国を逃れ、フランスに難民として滞在中―という事実を知ると、見え方が変わる。

 クリエイティヴ・ユニオン・ヒロシマの主催。伊藤由紀子とパスカル・ボースがキュレーターを務めた。=敬称略(西村文)

(2022年3月22日朝刊掲載)

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