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連載・特集

緑地帯 野中明 ゲンビとわたし⑦

 ゲンビ敷地内の野外展示場には数多くの作品が展示されている(工事のため一時撤去中)。中でもユニークなのが広島市出身の彫刻家、岡本敦生(1951年~)の「Earth Call―Hiroshima」(96年)だ。この作品、石の躯体(くたい)に電話機が内蔵されており、082・263・0540番に電話をかければいつでもどこからでも広島の音を聞くことができる(休止中。来年3月再開予定)。広島と世界を音でつなぐ。なんと素敵(すてき)な発想だろう。

 98年に開催された第6回米子彫刻シンポジウムの会場。当時米子市美術館の学芸員であった私はそこで岡本の制作を目の当たりにする機会を得た。10トン以上はあろうかという大きな石の塊。岡本はそれをひたすら割り、たくさんの小さな直方体のピースに分割した。そして、一部を削るなど各ピースそれぞれに手を加えたのち、再び元の塊に戻すようにすべてのピースを組み直していく。その結果、内部に鍾乳洞のような空洞を孕(はら)んだ石の塊が出現したのだった。件(くだん)のゲンビの作品も基本的にはこれと同じ方法で制作されている。

 独特な制作プロセスに由来する造形は岡本作品の大きな魅力の一つだ。しかしさらに重要なことがある。鑑賞者の想像力に働きかけ、新たな時間、新たな空間のイメージを生じさせること。彼の作品の真の魅力はそこにある。広島空港に設置されているモニュメント「地球・一個の球体のために」(93年)もまさしくそんな作品だ。移設計画が進行中とのことだが、良いかたちに落ち着くことを祈っている。(広島市現代美術館副館長=広島市)

(2022年3月23日朝刊掲載)

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