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社説・コラム

社説 ウクライナ侵攻1ヵ月 人道危機 目をつむるな

 ロシアがウクライナへの侵攻を開始して、きょうで1カ月。人の命が簡単に失われる人道危機のありさまに心が痛む。

 数十の都市などに対するロシア軍の攻撃はエスカレートしている。数え切れないミサイルを市街地に撃ち込む作戦は、最初から民間人の殺傷を狙った無差別攻撃にしか思えない。

 プーチン大統領は国際社会の非難や経済制裁の強化も、どこ吹く風だ。自国の経済が制裁でダメージを受けつつあるのに無謀な戦争を継続するとは、どう考えても正気を失っている。

 戦火に追われて国外に逃れるウクライナの人たち、あるいは1万人近いともいわれるロシア軍の死者。こうした不都合な真実にプーチン大統領は目をつむり、自国の報道を厳しく統制する。一国の指導者として恥を知り、即時停戦とロシア軍の撤退に踏み切るよう強く求める。

 ロシアにしても、この1カ月は誤算続きだったに違いない。プーチン大統領が早々に核兵器使用をちらつかせたのも焦りの表れだったろう。ここにきて南東部マリウポリや南部オデッサなどへの攻勢を強めるが、焦点だった首都キエフ周辺の戦況はさほど変わっていない。ロシア軍の士気低下に加え、ウクライナ軍の根強い抵抗がキエフへの前進を阻んでいるようだ。

 両国の外交交渉も進んでいない。ウクライナの「中立化」などで歩み寄ったとの見方もあったが、停戦に至らないままだ。そもそも軍事力を背に影響下に置くのがロシアの狙いであり、降伏を求めているに等しい。停戦交渉を、攻撃準備の時間稼ぎに使った節もある。

 気になるのはロシアが手段を選ばない段階に入ったことだ。先週、最新鋭の極超音速ミサイルを使ったと自ら発表した。音速の5倍以上で飛び、既存の防衛網で迎撃が困難とされる。ウクライナのみならず、欧米への軍事力の誇示とも考えられる。

 次に警戒すべきは、国際条約で明確に禁じられた生物・化学兵器の使用だろう。核兵器と並ぶ大量破壊兵器の投入を絶対に許してはならない。

 きのうウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会へのオンライン演説を行った。アジアで初めてロシアに強い制裁を行った日本への謝意と継続の要望を表明した。さらにロシア軍によるチェルノブイリ原発の占拠を非難するとともに、サリン攻撃への不安を口にした。その懸念を大統領と共有したい。

 日本政府の対応もあらためて問われる。主要7カ国(G7)はきょう、岸田文雄首相も出席してベルギーで首脳会談を開き、もう一段のロシア制裁を打ち出すという。日本が共同歩調を取るのは当然のことだろう。

 ただロシアは日本の経済制裁に対抗し、北方領土問題を含む平和条約交渉の中断や4島での共同経済活動からの撤退を通告してきた。明らかな逆恨みだが、冷静に受け止めたい。領土問題では譲歩しないロシアの本音が表に出ただけだからだ。

 安倍晋三首相の時代、国際社会の冷ややかな目をよそにプーチン大統領との蜜月関係を演出し、経済活動と連動する2島返還のシナリオを描いていた。それは、とうに破綻している。岸田政権としてはウクライナ支援の強化に加え、ロシア外交を根底から練り直す必要がある。

(2022年3月24日朝刊掲載)

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