×

連載・特集

緑地帯 野中明 ゲンビとわたし⑧

 私の経験を語りながらゲンビの宣伝をしよう。そんな目論(もくろ)みとともに書き始めたこのエッセー。最後に書き漏らしたことを一つ。

 ゲンビの野外展示場には、座り込む人の背中の抜け殻のようなかたちをしたブロンズ製の物体40体が並ぶ作品がある。ポーランドの作家、マグダレーナ・アバカノヴィッチ(1930~2017年)の「ヒロシマ・鎮まりしものたち」(1992~93年)だ。声なき声で人間の存在と尊厳を語るこの作品は、ゲンビの代表的なコレクションの一つと言っていい。

 連載のはじめに紹介したチェレにも彼女の作品が設置されている。頭部と両腕を欠いた人体のトルソ33体によって構成される「カタルシス」(85年)だ。屋外での恒久展示という条件をクリアするため、アバカノヴィッチは石やファイバーグラスなど様々な素材を検討したという。そして最終的に選んだのは、彼女自身がそれまで時代遅れなものと見做(みな)していたブロンズだった。以後、彼女は数多くのブロンズ作品を生み出し、それらは世界各地の屋外に設置されている。このチェレでの挑戦が無ければゲンビの作品も無かったかもしれない。チェレとゲンビをつなぐささやかな話題として。

 約1年後に迫ったリニューアルオープンに向け、現在ゲンビのスタッフは大忙しだ。そんな中でも「どこかで?ゲンビ」という旗印のもと、われわれは日々積極的に外に打って出て様々な活動を展開している。ぜひ情報をチェックしてほしい。もちろん新装なったゲンビに足を運ぶのもお忘れなく。 (広島市現代美術館副館長=広島市)=おわり

(2022年3月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ