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社説・コラム

『記者縦横』 核廃絶の訴え 一層意味

■報道センター社会担当 宮野史康

 核戦争を恐れ、パニックに陥らないように―。その対処方法を、非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のベアトリス・フィン事務局長が写真共有アプリ「インスタグラム」で発信していたのに驚いた。これまでは、むしろ「核兵器がもたらす結末を想像してほしい」と訴えていたからだ。

 ヒロシマ、ナガサキの惨禍は、核兵器の使用が人道にもとる壊滅的な結末をもたらすと示す。適切な医療を施すのも不可能だ。ノーベル平和賞を2017年に受賞したICANが、被爆者と共に国際社会で警鐘を鳴らしてきたのは、多くの市民が核兵器の使用を差し迫った脅威と捉えていなかった裏返しでもあった。

 世界は変わった。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、罪のない市民の命を奪い、長期にわたり放射線被害をもたらす核兵器の使用をちらつかせた。冷戦を知らない日本の若い世代に「核戦争が急に現実味を帯びてきた」との受け止めが広がっている。

 くしくもプーチン大統領の言動は、核抑止論の下で核兵器が存在する今の世界が恐怖の上に成り立っているという事実を私たちに突き付けた。「核兵器の使用を防ぐ手だては廃絶しかない」。不安を感じる若者の相談に応じるNPO法人ANT―Hiroshima(広島市中区)の渡部朋子理事長(68)は言う。私たちの安全を守るため、核兵器を正しく恐れる被爆地の揺るがぬ廃絶の訴えが一層、意味を持つ。

(2022年3月25日朝刊掲載)

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