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社説・コラム

『潮流』 輸入依存の危うさ

■論説主幹 宮崎智三

 1人の独裁者の暴走が世界を混乱に陥れている。その余波で、日常に潜む脆弱(ぜいじゃく)性が浮かび上がってきた。

 ロシアのプーチン大統領が1カ月前に踏み切ったウクライナ侵攻である。危険な放射性物質を扱う原発攻撃にまで手を染めている。

 国際社会が厳しい経済制裁を科すのは当然と言えよう。あおりで、エネルギーや食料の流通が滞り、価格の高騰を招いている。

 原発稼働や貿易は、平穏な国際環境が前提なのに、まさか21世紀の欧州で戦争が起きるとは…。

 「核兵器がないと国は守れない」。他国の危機に便乗し、歴史を逆戻りさせる主張さえ国内で耳にする。議論する自由はあるが、政治家なら足元の問題にこそ目を向けるべきである。

 いざというとき、国民の食べ物は確保できるか。安全保障というなら、そんな議論が急がれよう。

 食料自給率は2020年度、カロリーベースで37%と過去最低となった。政府は30年度に45%まで引き上げる目標を掲げている。しかし達成は見通せない。欧米との差も開く一方だ。米国は100%を超え、ドイツや英国は80~60%台だ。

 政府は長年、工業製品の輸出を優先するため、国内の農業は後回しにしてきた。その言い訳として、日本の農業は過保護だから衰退したので、競争力強化が必要だと説明してきた。

 しかし東京大大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)は、実際は逆だと近著「農業消滅」で明かしている。例えば米国は穀物輸出の補助金だけで多い年には1兆円も使う。戦略を持ち、高いコストをかけてでも輸出国になっているのだ、と。

 日本が戦争に巻き込まれなくても、経済力が落ちて円安が進めば、食料が今までのようには輸入できなくなる恐れがある。食べ物を他国に過度に依存する危うさを放置していては、国民の日常は守れない。

(2022年3月26日朝刊掲載)

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