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米「限定」宣言断念 被爆者「願いとギャップ」 専門家「踏ん張った表現」

 米政権が策定中の新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で、核兵器の役割を核攻撃阻止などに限る「唯一の目的」宣言を見送ると報じられた26日、被爆者に落胆の声が広がった。ロシアのウクライナ侵攻を機に核抑止力を重視する論調が国際社会で強まる中、バイデン政権が掲げる「核兵器なき世界」へ向けて「踏みとどまった」との見方を示す専門家もいた。(明知隼二)

 「被爆者の望む方向ではない。机上の理屈ばかりが議論されている」。広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(80)は残念がった。

 バイデン大統領は「核兵器なき世界」を掲げたオバマ政権で副大統領を務め、「唯一の目的」宣言の採用を公言。NPRに小型核開発を明記したトランプ前大統領からの方針転換に期待する声は今もある。箕牧理事長は「就任時ほどの期待感はないが、減らす方向に進んでほしい」と願った。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(77)も「被爆者の願いとギャップがある」と指摘した。ロシアのプーチン大統領が核兵器使用を示唆するなど核兵器廃絶の議論に逆風が続く。「核戦争を起こさせないため、被爆者には大きな役割がある」と強調した。

 核兵器の「唯一の目的」に代わり、新たなNPRに盛り込まれるとされる「根本的な役割」との表現は、通常兵器などへの対応で核兵器使用の可能性を残す。オバマ政権下のNPRでも使われた。

 非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員(53)は「望ましいとは言えない」としつつ「核抑止力強化を求める議論が桁違いに強まる中、オバマ政権並みの表現を維持するのなら踏ん張ったとも言える」と分析。「バイデン氏自身は核兵器に関して抑制的な路線だが、ウクライナ侵攻もあって政権内に綱引きがあるのではないか」と述べ、新たなNPRの策定議論を注視するとした。

(2022年3月27日朝刊掲載)

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