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南方留学生の遺族墓参り 被爆のユソフさん弟の孫、佐伯区の寺に 証言聞き「帰国し伝えたい」

 戦争中に広島で学んだマラヤ(現マレーシア)出身の「南方特別留学生」で、原爆の犠牲になったニック・ユソフさんの遺族がこのほど、墓のある光禅寺(広島市佐伯区)を訪れた。留学生を知る被爆者の証言も聞き、当時の足跡をたどった。(湯浅梨奈)

 ユソフさんの弟の孫に当たるニック・マスタキームさん(25)。境内に立つイスラム式の墓石の前で花を手向け「魂が天国へ行きますように」とアラビア語で祈りをささげた。「地元の皆さんがこんなに丁寧に墓を手入れしてくれているとは…」と感涙した。

 ユソフさんは、日本に協力的なアジアの指導者を育てるという日本の国策に基づき、広島文理科大(現広島大)に留学した9人のうちの1人。爆心地から約900メートルの学生寮「興南寮」(現中区)で被爆して大やけどを負い、五日市町(現佐伯区)に逃げて息絶えたという。前住職の星月空(ひろし)さん(74)が「地元の人が火葬して、消防士が遺骨を届けてくれた」と埋葬の経緯を説明した。

 墓参後にマスタキームさんは、被爆直後から南方特別留学生たちと野宿した体験を持つ栗原明子さん(95)=安芸区=とオンラインで対面した。栗原さんは「ユソフさんは、寮生の無事を大学に報告すると言って去ったきりでした。遠くまで逃げてどんなに苦しかったことか」と記憶を語った。

 マスタキームさんは留学先の室蘭工業大(北海道)を今春卒業。帰国前に広島を訪れた。「大伯父に憧れて日本に来た。広島で知ったことを伝えていきたい」と話した。

(2022年3月27日朝刊掲載)

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