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被爆の苦難や復興 歌に 広島市出身ミュージシャン 茂村泰彦さん 日米市民 惨状共有願う

 広島市出身のロックミュージシャン茂村泰彦さん(東京都)が、原爆被害と復興をテーマにした曲「THE RIVER」(川)を制作した。「忘れちゃいけないことがある 語り継ぐべきことがある」。世代や国の違いを超えて共有したい願いを歌詞に込めた。

 「何が起きたのかもわからずに 消えてしまった人達(ひとたち)がいる」と声なき犠牲者の存在を伝える。やけど痕や差別など、あらゆる苦難を背負う被爆者の心境を歌い、「あの日からの蘇生 伝えよう 話を聞こう」と呼び掛ける。

 茂村さんは、島根県海士町生まれで広島市育ち。観音高(西区)では軽音楽同好会で活動し、21歳の時デビューした。自らの音楽活動に加え、1990年代にはフォークユニット「19」をプロデュース。夏川りみさんらに曲を多数提供している。現在全国ツアー中の高橋真梨子さんのオープニング曲「ありがとう」も茂村さんの作品だ。

 ヒロシマを歌う曲は、今回が初めて。80年代からレコーディングのため毎年渡米するうちに、ニューメキシコ州の先住民居留地の人たちと親交を深めたことがきっかけとなった。

 地元ラジオ局からの依頼で1時間番組に出演した6年前、司会者から「原爆についてどう思うか」などと矢継ぎ早に質問を受けた。うまく答えられなかった。「知らないことが多いと痛感した。米国人を前にどう伝えるべきか、迷いもあった」。同州には原爆開発の地ロスアラモスと、史上初の原爆実験が行われたトリニティ・サイトがある。

 ちょうどその後、知人から新たな曲の制作を依頼された。故丸木位里、俊夫妻が描いた「原爆の図」や被爆体験記から学び、5年を費やして歌詞を書いた。

 ストレートな表現の中に「誰が悪いとか償えとか今は言わないけど」とあえて入れている。まず日米市民がともに原爆の悲惨さと向き合おう、との思いからだ。「この曲が、6年前のあの時への答えです」。地元広島の友人が作ってくれた動画に、日英併記で歌詞の字幕を入れた。

 今、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核使用の意思をちらつかせている。「体が熱くなるほどの怒りに震えた。伝えることの大切さを、なおさら思う」。新型コロナウイルス禍が収束したら、米国で披露したいという。広島でも演奏するつもりだ。https://www.youtube.com/watch?v=CAAHczQZeuk(金崎由美)

(2022年3月28日朝刊掲載)

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