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連載・特集

山口の被爆者 第1部 岐路に立つ活動 <1> 被団協支部の再編

高齢化の波 解散相次ぐ

未加入者に声かけ

 被爆六十年の夏を迎える。県内の被爆者組織で今、解散が目立つ。会員の減少に、世話をする後継者の確保ができないためだ。高齢化。この現実が、被爆者自身に、組織に押し寄せている。体験の継承や活動を、どんな態勢で、どう続けていくのか。被爆者や組織、支援団体の活動を通して現状と課題を追った。(有岡英俊)

 「母がお世話になった。いずれは、手伝いたいと思っていたし、活動を継承するのは務めだ」。山口市吉敷の田中敏彦さん(62)は今年五月、山口・小郡地区原爆被害者の会に入った。五年前から看病を続けた母カツミさんが三月、九十歳で亡くなり、代わって会員になった。

 田中さんはカツミさんに連れられ、山口市の自宅から八月十日ごろ、広島市内に入った。母の弟を捜すためだった。二歳十一カ月。「川沿いに並んだ多くの遺体と、鼻を突く焦げたにおいが記憶の底に焼き付いている」

 バスを運転できる大型二種免許を持つ。「例えば八月六日、広島まで運転して行きたい」と力を込めた。

 田中さんが入会した総会で、紹介された新会員は三人だった。

合併も影落とす

 県原爆被害者団体協議会(県被団協)の支部である、地域の被爆者の会の再編が始まっている。二〇〇三年六月に萩地区原爆被爆者友の会、〇四年十月に大和町原爆被害者の会、同年十二月には平生町原爆被害者の会が相次いで解散した。今年五月には合併で一支部が減った。

 萩が解散する前は十九支部だったが、今は十五支部になった。解散は、いずれも世話人が体調を崩したり、亡くなったりして、活動ができなくなったためだ。

 県被団協の上野さえ子事務局長(56)は「これだけ一気に解散したことはない。このままでは、支部はさらに減るだろう」と受け止める。県内の被爆者の平均年齢は七十四歳。活動を受け継いで世話ができる会員が少なくなっている現実に直面する。

 県内で被爆者健康手帳を持つのは〇五年三月現在、五千百二十七人。前年の同期に比べて百三十九人少なくなった。死亡や転出などで、ここ十年は年間約百三十人のペースで減少している、という。

巡回検診が頼み

 ただ、県被団協に登録するのは約千七百人。三千人余りの未加入者に、どう声をかけ、参加してもらうのか。頼みの綱が、県内での巡回検診だ。

 県被団協と県原爆被爆者福祉会館「ゆだ苑」が毎年、三カ所で展開している。今年は山口、周南、岩国市を回り、被爆者と被爆二世の合わせて百八十人が訪れた。被爆者援護法に基づき毎月支給される健康管理手当を申請していなかった十八人が新たに判明した。大半が六十歳代だった。

 こうした被爆者が、すべて会員になるかといえば、厳しいのが実情だ。県被団協は「家族に体験を語っていない被爆者が多い」と打ち明ける。

 会員は原則、被爆者本人と被爆二世を対象としている。「各支部の状況に応じて、家族に参加を促すなどの対策が求められている」との声も上がる。

 県被団協の竹田国康会長は、各支部の総会で繰り返し呼び掛ける。「私たちと同じような経験を世界の人にしてほしくない。力の続く限り、訴えなければならない」

(2005年6月28日朝刊掲載)

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