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社説・コラム

天風録 『ウクライナと心通う言葉』

 「何語を話しますか」と聞くなら、「ハッタ ランゲシ ヅー ユー スパーカ」。幕末に書かれた日本最初の本格的な英会話教本にそうある。出だしの単語「What language」は「ハッタ ランゲシ」で通じるという▲著者はジョン万次郎。漂流したが米国の捕鯨船に助けられ、英語を身に付けた。10年後に帰国し、幕府の命でこの本を書いた。耳にした英会話をカタカナで表記した。原音通り発音させる工夫もあり、役立ったようだ▲外国語を聞いた通りにカナにするのが得意な万次郎なら、どう記すだろう。ウクライナの首都を。従来使ってきたキエフはロシア語に由来する呼び名。ウクライナ語なら「キーウ」が近いそうだ。欧米メディアはキーウを使い始めている▲もちろんロシアに対する抗議の意味と、ウクライナの人々への配慮があるのだろう。祖国を侵略、破壊しているロシアの言葉で地名を呼ばれるのは耐えがたい屈辱だろう。日本政府も変更するかを検討し始めたという▲脱ロシア語はどこまで。チェルノブイリ原発は「チョルノービリ」といい、慣れるのに時間もかかる。「ウクライーナ」と心通わすためにもカナ表記の教本がほしい。

(2022年3月31日朝刊掲載)

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