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社説・コラム

社説 停戦交渉 初の進展 ロシアの真意見極めよ

 当初、目標として掲げていた首都制圧は断念せざるを得なくなった証しだろう。ウクライナとの停戦交渉で、ロシアが首都や北部方面での軍事作戦を大幅に縮小すると明らかにした。

 実現すれば信頼が醸成され、停戦交渉の前進につながるかもしれない。何せ、双方が歩み寄って具体的な進展が見られたのは初めてのことだ。合意の準備ができれば首脳会談の可能性もあるという。一部に期待感が出てきたというのもうなずける。

 とはいえ、作戦縮小というロシアの譲歩案をどこまで信頼していいのか、疑問が残る。自国に有利な状況をつくるための時間稼ぎではないか。プーチン大統領の真の狙いは何か。慎重に見極めなければならない。

 米国防総省によると、ロシア軍の一部部隊の移動を確認したが、小規模にとどまっているという。部隊の「再配置」であって、本当の撤退ではないとの分析だ。首都への空爆も続いており、「だまされてはいけない」とまで言い切っている。

 背景には、ロシアが事前に想定したようにはウクライナ侵攻が進まなかったことがある。数日で首都を制圧できる、との見方もあったのに現状は厳しい。

 今のところ、ロシア国内での政権支持率は依然高い。しかし欧米日などによる経済制裁がじわじわ効いているようだ。今後も、国民の支持をつなぎ留められるかどうかは分からない。

 制圧にてこずっている首都を諦める代わりに、より攻めやすい東部に戦力を集めてウクライナを分断。東側をぶんどって、ロシア兵にも犠牲者の出た侵攻の成果だとして国民に示す―。それが政権の狙いなのではないか。そうでもしない限り、ウクライナ侵攻を自らやめることは困難な状況にまで追い込まれているように映る。

 ロシア国防相の発言が、それを裏付けている。「『軍事作戦』の最大の目的は東部のドンバス地域の解放だった」と事実上の方向転換を示している。

 一方のウクライナは、譲歩を幾つも強いられている。とりわけ北大西洋条約機構(NATO)加盟については、10を超す関係国による安全保障の枠組み構築と引き換えに加盟を断念して中立化する、という。

 2014年にロシアが強制編入したクリミア半島の主権問題については、今後15年間の協議で解決するとした。

 そもそもロシアの侵攻自体が国際法違反なのだから、ウクライナが、次々と譲歩を強いられてしまうのは受け入れ難い。

 日を追うごとに民間人も含め犠牲者は増える一方だ。ロシア軍に包囲され、無差別とも言える攻撃にさらされている南東部マリウポリでは5千人近く死亡したとされる。人道危機は深刻さを増している。本来求められるべきは、一刻も早いロシア軍の撤退のはずである。それを国際社会は忘れてはならない。

 ウクライナ侵攻は紛れもない戦争犯罪である。国際司法裁判所(ICJ)が、直ちに侵攻を停止するようロシアに命じている。15人の裁判官のうち、反対はロシアと中国の2人だけだった。実効性は乏しいものの、国際法上の拘束力はあるという。

 平和で安定した世界のため、ロシアのさらなる譲歩を引き出し、実行させるよう国際社会が後押ししなければならない。

(2022年3月31日朝刊掲載)

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