×

社説・コラム

天風録 『岸田ノート』

 側近でさえ怖くて真実を伝えられないらしい。ロシアのプーチン大統領である。そのため、ウクライナの戦況が都合のいい情報だけ届けられていると米政府は分析する。聞く耳を持たぬ独裁者の下で、いつまで悲劇が繰り返されるのか▲こちらは、「聞く力」を看板にする岸田文雄首相。国民の声を書き留めてきたという「岸田ノート」を掲げて、昨秋の自民党総裁選と衆院選を勝ち抜いた▲先月の参院予算委員会で、今国会中にノートへ書き込んだ量を問われて、首相は「1冊ほど」と苦笑いしながら答えた。2冊使った衆院選と比べ、ずいぶん少ない印象だ。野党から傾聴に値する提案が乏しかったのか。そういえば青い小さなノートを示す姿も久しぶりだった▲現場に出掛けて直接声を聞く車座対話には変わらず力を入れる。先日は地元広島でユース非核特使を経験した若者の思いを聞き「勇気づけられた」と、核兵器廃絶への決意を新たにした▲岸田政権が半年の節目を迎えた。難しいのを承知でお願いしたい。岸田ノートに記されている、あまたの被爆者の声とともに、真実を独裁者に伝えてくれまいか。ヒロシマ選出の首相にしかできない役割だと思うのだが。

(2022年4月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ