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連載・特集

岸田政権半年 <上> 核兵器のない世界

非核三原則 堅持貫く

抑止力依存 「矛盾」の声

 3日、日曜の昼下がり。岸田文雄首相は首相公邸にいた。前日には2カ月ぶりの休みを取ったが、この日は公務で政権幹部や秘書官とウクライナ情勢への対応などを協議した。内政や危機管理も含め懸案は山積み。「政治判断の重さを改めて感じる」と振り返る。

 新型コロナウイルス対策や経済政策で手腕が問われる中、被爆地選出の首相として注目されるのが「核兵器のない世界」の実現だ。昨年秋の自民党総裁選で掲げた「ライフワーク」は、にわかに喫緊の課題となる。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が2月24日、演説で核使用をちらつかせた。

 「言語道断だ」と指弾した首相だが、思わぬ火種が足元で。日本国内に米国の核兵器を置き、共同運用する核共有政策を議論すべきだとの声が政界に広がる。提起したのは安倍晋三元首相(山口4区)だった。

 歴代最長政権を築いた安倍氏に対し、首相はどう振る舞うのか。政権の安定には自民党最大派閥トップとの良好な関係は欠かせない。ただ、妥協すれば「核兵器なき世界」への道筋はかすみ、言行不一致との批判も免れない。そんな見立てにも首相は信念を貫く。

被爆者の願い

 「核共有は政府として議論しない」。国会答弁ですぐさま訴え、その後の論戦でも繰り返し退けた。「総理には被爆地を背負う使命感がある」と首相周辺。首相がよりどころとしたのは非核三原則だった。

 1971年の衆院決議を経た「持たず、つくらず、持ち込ませず」の国是は、被爆者の願いの結晶といえる。首相は党内議論を認めたが、関連会合は「日本に核共有はなじまない」と初回で決着を見て、被爆国は「一線」を越えなかった。

 では、国防をどうするのか。首相が強調するのは「世界屈指の日米同盟による拡大抑止」である。中国や北朝鮮の「脅威」への備えを問われた3月31日の衆院本会議では「米国が核を含むあらゆる能力」を使って日本を守ると主張。米国の「核の傘」に頼る姿勢を鮮明にした。

禁止条約に背

 被爆者は失望や不満を口にする。「核なき世界の理想と矛盾している」と日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(89)。核共有論を退けたのは「被爆国として当然だ」とし、「一日も早い核兵器廃絶に具体的に動くことが首相の役割だ」と求める。

 首相は核兵器を全面的に禁じる核兵器禁止条約にも背を向け続ける。「米国と信頼関係を築いて条約に連れて行く」と持論を唱えるが、被爆者の間には即時参加を求める声が根強い。

 3月26日にはその米国のエマニュエル駐日大使と広島を訪れ、原爆資料館を訪問。同行した寺田稔首相補佐官(広島5区)は、年内に世界の政治指導者を広島に招く国際賢人会議に向け「大きな弾みになった」とみるが、8月には7年ぶりの核拡散防止条約(NPT)再検討会議が控える。

 米ロなど核保有国も交え核軍縮の道筋を探る場で、官邸は首相の出席を探る。被爆者の願う核兵器廃絶に近づけるのか。政権の真価が問われる。 (樋口浩二、口元惇矢)

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 政権発足から4日で節目の半年を迎えた岸田文雄首相。被爆地選出のリーダーとして「核兵器のない世界」の実現を掲げ、新型コロナウイルス対応と経済政策に注力。政治改革への意欲も示す。これまでのかじ取りを振り返り、課題を探った。

(2022年4月4日朝刊掲載)

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