×

社説・コラム

社説 岸田政権半年 独自施策の肉付け急げ

 岸田政権が発足して、きょうで半年になる。「新しい資本主義」やデジタル田園都市国家構想、核なき世界といった壮大な政策を岸田文雄首相は掲げている。ただ、どう実現させるか、今なお道筋は明らかではない。

 特段の実績はなく、不満が出てもおかしくなかろうに、内閣支持率は堅調だ。年明けに新型コロナウイルスへの対応が後手に回って一時は下がったものの、ロシアのウクライナ侵攻が思わぬ追い風となった。欧米と足並みをそろえて、ロシアに厳しい姿勢で臨んだことが評価され、支持率は再び上昇した。

 ただ、楽観はできない。侵攻の影響などによる物価高が国民生活を脅かし始めている。暮らしを守る対策を講じながら、中長期的な独自施策の肉付けを急がなければならない。

 支持率が堅調なのは、安倍晋三、菅義偉両氏の率いた政権を反面教師にしているからだろう。従来の国民への説明不足や強引な政治姿勢を改めようとする努力が奏功している。例えば岸田首相は会見に加え、立ったまま記者団の質問に答える「ぶら下がり取材」に小まめに応じ、既に100回を超えた。

 自ら長所という「聞く耳」もうまく発揮できている。施策が不人気だったり批判が集まったりすれば撤回も辞さない。最近は年金受給者への5千円支給案を白紙に戻した。「朝令暮改」との批判もあるが、柔軟さを欠いた前2代の政権より、ましだと思われているに違いない。

 首相の独自政策は、自ら率いる自民党内の派閥「宏池会」の伝統を重んじる姿勢が、うかがえる。新しい資本主義は宏池会を創設した池田勇人・元首相の所得倍増計画の令和版と言えよう。問題はどう進めるか。実行計画を近くまとめるというが、国民の多くが望む分配よりも、成長が先というのでは、今まで同様、「失敗」しかねない。

 デジタル田園都市国家構想は宏池会を率いた大平正芳元首相の看板政策を基にしている。ただ、デジタルを地方にも普及させるだけでは不十分だ。東京一極集中の是正にまで踏み込んでこそ、大平氏の理念を生かせるはず。具体策が待たれる。

 核なき世界への動きも鈍い。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせたことで、核保有自体の危うさが示された。被爆地の訴えを形にした核兵器禁止条約が発効した以上、被爆国として積極的に後押ししなければなるまい。岸田首相は、初の締約国会議へのオブザーバー参加を決断すべきである。

 3カ月後には参院選が控えている。コロナ第7波への備えや物価高など懸念材料が多く、政権の正念場はこれからだろう。

 「政治とカネ」問題への毅然(きぜん)とした対応も参院選に向け求められる。首相の地元の広島で3年前、参院選を舞台にした大規模買収事件が起きた。カネを受け取った政治家がようやく起訴されたが、党本部から提供された1億5千万円という破格のカネの問題は決着していない。

 公明党も含め、与党内で後を絶たないカネまみれ政治を断ち切るため、政党を含めた全ての政治資金の透明化が必要だ。指導力を発揮して、疑惑を持たれない政治を実現できるか。岸田政権にとって、試金石であることを忘れてはならない。

(2022年4月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ