×

連載・特集

[ウクライナ侵攻 被爆地の視座] 被爆者で元原爆資料館長 原田浩さん(82)

惨状 より強く発して

 たった一発の原爆で広島の爆心地から半径2キロ圏の街が全壊全焼し、多くの市民が即死した。今も原爆供養塔には約7万体とされる身元不明の遺骨が眠る。私は6歳で爆心地から2キロの広島駅で被爆し、炎が迫る中、倒れた人たちを踏んで逃げるしかなかった。

 その悲惨さを知らず、ロシアは核使用を辞さない構えを見せている。核兵器は絶対に使ってはいけないという訴えを広島からもっと強く発しなければならない。

 ロシアの報道官は「国家存続の脅威」にさらされれば核使用があり得ると説明している。核使用が国際法に照らし違法か合法かを審理した国際司法裁判所(ICJ)が1996年に出した勧告的意見が念頭にあるのだろう。当時、国家存続の危機の場合では違法か合法か判断できないとされ、あいまいさが残った。

 一方で、ICJで陳述に臨んだ当時の平岡敬広島市長は被爆実態を基に核使用を明確に違法と訴え、勧告的意見も「一般的に違法」と指摘した。それを土台に使用を含めて核兵器を全面的に禁じる核兵器禁止条約が2017年にできた。核保有国は未批准だが、この条約が国際社会の大前提となるように広島から訴え続けなければならない。

 今回のロシアの動きを受け、実際に核兵器が使われた広島と長崎への世界の関心は一層高まるはずだ。一方で体験者は老い、「被爆者のいない時代」が迫る。悲惨極まる被爆の惨状を今後どう伝えていくかを被爆地が見つめ直す時だ。

 原爆資料館の展示もその一つだ。リニューアルで犠牲者の遺品を前面に押し出したのは重要だが、全体的に「きれいすぎる」印象だ。例えば、遺体の死臭がどんな状況だったのかが感じられない。再現は不可能でも、被爆者が五感で体験したことにより近づける展示をもっと追求してほしい。

 被爆建物の有効活用も必要だ。旧陸軍被服支廠(ししょう)(広島市南区)などは瀕死(ひんし)の被爆者が収容され、ほとんど治療されずに息を引き取った無念の場所。被爆者がいなくなった後も平和を訴える大切な存在だ。

 被爆地が各国から訪れる政治指導者や市民に被爆の惨状をしっかりと伝える体制を整えてこそ、訪問を核兵器廃絶へ具体的な行動を起こすきっかけとすることができる。被爆地の行政は要人たちへの訪問要請だけでなく、被爆者、市民と一緒になってその体制づくりに努めることが求められる。(聞き手は編集委員・水川恭輔)

(2022年4月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ