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社説・コラム

『潮流』 宇宙から見えるもの

■防長本社代表 山岡達

 ロシア軍の侵攻が始まった2月24日の衛星画像は、ウクライナ北東部の飛行場を捉えていた。ミサイル攻撃によるとみられる黒煙の上がる様子が分かる。侵攻前には、国境近くにロシア軍の車両が集まっていることなど、緊迫した状況が明らかになっていた。

 山口大応用衛星リモートセンシング研究センター長の長井正彦教授(50)が、本紙山口版の寄稿連載「山大発 宇宙利用の道しるべ」で紹介していた。紙面に載った画像は、米国の商用衛星「プラネットスコープ」が撮影したもの。地球の常時観測体制を確立しており、さまざまな状況を知ることが可能という。

 連載では、東日本大震災発生時の観測の様子も明かす。長井教授は2011年3月11日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の主任研究員として、タイのバンコクにいたそうだ。

 JAXAは、被害を把握するために海外の宇宙機関に対し、衛星による緊急観測を要請した。ところが混乱のさなかにある日本国内からでは各機関との調整を始められない。そこで、長井教授がバンコクで司令塔の役割を担うことになった。

 「もし、自分が寝ている間に貴重な観測機会を逃してしまったら、助かる命が助からないかもしれない」。2週間ほどオフィスに泊まり込んで衛星データのやりとりや解析を続けた。

 世界中から提供された衛星画像は5500枚に上った。この時の経験が山口大での人工知能(AI)による衛星データの自動処理やデータ校正の技術開発につながっている、と長井教授は言う。

 宇宙関連の技術は、軍事技術として開発されたものがほとんどだ。衛星データは防災や環境、農業など、さまざまな分野での活用が期待される。宇宙利用の先端技術は、戦争のためでなく、平和な社会のために―。そう強く思う。

(2022年4月5日朝刊掲載)

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