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連載・特集

山口の被爆者 第1部 岐路に立つ活動 <5> 懸け橋

次代へバトン 二世本腰

証言撮影や学習会

 山口市の寺中正樹さん(43)、千尋さん(40)夫妻がこの夏、新しい取り組みを始める。十万円で購入したデジタルビデオカメラ。被爆者の証言を映像に残す作業だ。

 「被爆者の話を丁寧にゆっくりと聞く。自分とのつながりを見つけ、感じる。継承はそこから始まる」。夫婦で県原爆被爆者福祉会館「ゆだ苑」での活動に参加し、学んだ継承の姿勢である。

父 大やけど負う

 寺中さんの父、節生さん(74)は広島市南区大須賀町の旧国鉄研修所で被爆した。右半身に大やけどを負った。

 「父は体が弱く、思うように働けなかった。貧乏だった」。一緒に遊んだ思い出も少ない。「原爆がなければ」。こんな父の言葉を、いつしか何度も耳にするようになった。被爆の後遺症に苦しむ姿が、今の活動の原点である。

 ゆだ苑が年三回、休日の巡回検診を続けている。寺中さんは十年余り前から毎年、参加している。山口・小郡地区原爆被害者の会の事務局長でもある。「被爆者の苦しみや痛みに、どう向き合っていけばいいのか」。問い続けている。

 被爆体験の継承や反戦運動などを目的に、兄哲郎さん(45)とともに一九八五年、二世の会を発足させた。寺中さんは代表を務める。

 二カ月に一回、ゆだ苑で相談電話「被爆二世一一〇番」を開設する。県内の二世の人数や健康状態を把握する「健康診断記録表」を県に申請するよう呼び掛けたり、県内外の二世の相談を受けたりしている。

 この日に合わせ、学生たちを集めた学習会も開く。ゆだ苑の歴史や被爆者援護法など、原爆や平和をテーマに議論する。二世の会の組織を強化するとともに、継承活動を支える人材を育成する狙いもある。

 学習会も相談電話もゆだ苑で開くには、こだわりがある。「山口の平和活動の拠点であるゆだ苑の火を消したくない」。これまで出会った多くの被爆者や二世。「この施設があったからこそ」との思いが強いからだ。

 今月三日、原爆詩の朗読会が山口市内であった。吉永小百合さんが詩人栗原貞子さんの「折づる」を優しく、力強く、読み上げた。静まりかえった会場に、大きな拍手が起こった。

60周年事業企画

 ゆだ苑が被爆六十周年記念のメーン事業として企画した。準備を進めたのは、寺中さん夫妻と学生ら三人が中心だった。

 朗読会が正式に決まった三カ月前から、ゆだ苑職員をまじえ、どうすれば来場者の心に響くか、どれだけ山口らしさを盛り込めるかなど、何度も会合を重ねた。

 証言ビデオの撮影は、九月六日の「山口のヒロシマデー」までに始める考えだ。当然、学生たちにも協力を求める。被爆体験のほか、被爆後の山口での暮らし、二世、三世、若者に残したいメッセージを聞く考えだ。

 「若者につなぎたい」。被爆者と次世代との懸け橋として、思いは熱い。(有岡英俊)  =第一部おわり

(2005年7月7日朝刊掲載)

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