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連載・特集

[ウクライナ侵攻 被爆地の視座] 「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」共同代表 田中美穂さん(27)

意見違っても対話する

 次々と失われていく命、爆撃され逃げ惑う市民…。交流サイト(SNS)を通じ、リアルタイムで伝わるウクライナの惨状に「これが戦争か」と痛感している。核超大国が核兵器を使うと威嚇することさえ現実になった。核兵器を地球上からなくそう―。この声を広める必要性を強く感じている。

 このウクライナの惨状に乗じ、日本では核兵器を米国と共同運用する「核共有」政策の議論が広がり始めた。政策の危うさやデメリットよりも核抑止力の必要性が強調されている。「これはまずい」とメンバーで緊急に会議を開き、抗議声明をSNSなどで発信した。

 ただ、カクワカ広島のウェブサイトに届くのは「ウクライナの状況があるのに丸腰になるなんて」「今、核廃絶なんて何を言っているんだ」などの異論が多いのが現実だ。意見が違っても丁寧に対話を積み重ねるしかない。一つ一つに返信し、核拡散につながりかねない核共有の問題点や、なぜ私たちが核廃絶を訴えているのかを伝え続けている。

 ロシアのウクライナ侵攻は権力の暴走だ。日本でも起こり得るからこそ、権力の監視が大切になる。カクワカ広島は2019年の発足以来、広島県ゆかりの国会議員や国政選挙の候補者に核政策を問い、結果を公開してきた。権力者を選ぶのは私たち有権者であり、暴走を防ぐのも有権者。若者は選挙への関心が低い傾向があるが、しっかりと政治に目を向けてほしい。

 6月には、核兵器を全面的に禁じる核兵器禁止条約の締約国会議が予定されている。被爆国の日本政府はオブザーバー参加さえしようとしない。政府が掲げる「核兵器なき世界」を実現させるため、参加を求め続けなければならない。被爆の惨状を被爆者のように現実味を帯びて伝えることはできなくても、核兵器の非人道性や国際法を学び、声を上げることはできる。

 ウクライナの情勢は、核被害は過去の出来事ではなく、核兵器がある限り、被害者が生まれる恐れがあることを突き付けた。だからこそ世界の若者とともに声を上げ続ける。「頑張って」。そう背中を押し、77年間癒えることのない苦しみを伝えてくれている被爆者の思いに応えるためにも。(聞き手は小林可奈)

たなか・みほ
 94年生まれ。北九州市出身。就職のため17年に広島市へ移り、19年に市内外の会社員や学生、カフェ店主たちでカクワカ広島を設立した。現在のメンバーは15人。広島県ゆかりの国会議員や国政選挙の候補者に核政策を問い、結果を公表するほか、核兵器禁止条約をテーマにしたオンラインイベントなどを開いている。

(2022年4月6日朝刊掲載)

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