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社説・コラム

社説 キーウ近郊 市民虐殺 ロシアの暴挙 許されぬ

 後ろ手に縛り、路上に無造作に遺体を放置するとは…。きのう本紙に載った写真を見て怒りを覚えた人は少なくあるまい。

 ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の情景である。兵士ではなく、多数の市民が殺害されていた。無抵抗のまま拷問され、処刑された形跡もあるという。子どもまで命を奪われている。

 民間人への攻撃や無差別な殺りくは、ジュネーブ条約で禁じられている。ロシアの行為は紛れもない戦争犯罪ではないか。

 ロシアは関与を否定している。しかし一方的に侵攻してきたロシアの言い分を、そのまま信じることはできない。

 ウクライナだけではなく、世界中がロシアを一斉に非難したのは当然だ。国際社会の結束が求められる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、遺体の画像を公開して「これはジェノサイド(大量虐殺)。国家と民族の破壊だ」とロシアを批判した。キーウ州ブチャでは、280人が集団埋葬された。

 現地の状況は、ウクライナ政府だけでなく、各国の報道機関や人権団体も伝え始めた。

 にもかかわらず、ロシアは「一人の住民にも手を出していない」とし、遺体の画像はウクライナの挑発と主張する。信じ難い開き直りではないか。

 ロシア軍の暴挙はキーウ近郊だけではない。激戦の続く南東部では市民が避難した劇場や、病院も容赦なく攻撃している。マリウポリでは市民の犠牲が5千人を上回るとの情報もある。ロシアが潔白と言うなら、きちんとした証拠を示し、調査に協力することが先決のはすだ。

 ロシアはかつてのチェチェン紛争でもテロリスト全滅を口実に無差別爆撃を加えた。多くの市民を殺害した軍事作戦を指示したのは、ほかならぬプーチン大統領ではなかったか。

 国連のグテレス事務総長は「深い衝撃を受けている」という声明を出し、「独立した調査により説明責任が果たされることが不可欠だ」とした。すみやかに調査団を派遣して実態を調査してもらいたい。

 2003年に発足した国際刑事裁判所(ICC)の役割も重要だ。戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで、既に証拠集めを始めているという。

 ロシア政府指導者や軍幹部の身柄を拘束できるかという難題はある。だが悲惨な事態を招いた責任は追及されねばならない。現地調査で証拠を集め、記録することが極めて大切だ。

 後ろ手に縛られた人を銃殺する光景は第2次大戦中の「カティンの森事件」と重なる。当時のソ連は2万人を超すポーランド人を虐殺しながら、敵対していたナチスドイツの仕業と言い張った。半世紀後に関与を認めたのは、ソ連の砲火が現地に迫る直前まで調査を続けていたことが奏功したからだ。

 ICC発足前の旧ユーゴスラビア紛争では、国連安全保障理事会が国際戦争犯罪法廷を設置し、市民を虐殺した元大統領らを訴追したこともある。

 市民を犠牲にする戦争犯罪は許されない。事実が明らかになれば、今はロシア寄りの国々に翻意を促すことにもなろう。ロシアに撤退を決断させる圧力にもなるよう、国際社会は結束して事実解明を急ぐべきだ。

(2022年4月6日朝刊掲載)

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