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社説・コラム

天風録 『アトム世代の夢』

 手塚治虫さんは19年前のきのうを鉄腕アトムが生まれた日とした。すなわち「心やさしい科学の子」は今や、押しも押されもせぬ成人に育ったのである。純真な心のアトムならさて、命を軽んじる今の戦争の世をどう思うだろう▲若い手塚さんが暮らした都内のトキワ荘の一室に、入れ替わりで住み着いたのが6歳年下の藤子不二雄Ⓐさんだった。富山県から上京した20歳は、手塚さんが開拓した児童漫画ブームを引き継ぐ。そして、くしくもきのう、88歳での訃報が伝わった▲冒険アクション、ギャグ、スポーツ、ブラックユーモア…。さまざまなジャンルに挑んだのは手塚さんと同じ。しかも、やんちゃで憎めない「怪物くん」、不気味な「笑ゥせぇるすまん」と強烈な魅力の主人公ばかりだ▲「明日にのばせることを今日するな」が座右の銘というが、多分に照れ交じりだろう。自伝的作品とされる「まんが道」について後にこう語っている。「これは大人になりかけても、まんがという夢を捨てず、夢に生きた人生ストーリーなのだ」と▲将来の夢までも砲弾に奪われたウクライナの、アトムと同世代の若者たちを思う。一日も早く、この戦争を終わらせなければ。

(2022年4月8日朝刊掲載)

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