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社説・コラム

『記者縦横』 105歳アスリートの「記録」

■三次支局 石川昌義

 「食い入るように」「目を皿のようにして」。普段の記事では可能な限り使わないように心掛けている安易な決まり文句だが、今回はお許しいただきたい。三次市中心部の大規模商業施設「CCプラザ」が、3月末の閉館を前に急きょ企画したチラシの展示。1972年3月に「みよしプラザ」としてオープンした直後から最近までの広告のボリュームに圧倒された私は、「時がたつのを忘れて」チラシに見入った。

 子どもの憧れだった双眼鏡や一眼レフカメラ、ゲームソフト…。夏恒例の土曜夜市には、人気絶頂のアイドルやタレントがゲストに訪れた。75年の広島東洋カープ初優勝の直後には、赤ヘル選手のサイン会に長い列ができた。古びて閑散としていた屋上広場に、こんな活気があったとは。

 丁寧な資料保管に感心していると、意外な名前を聞いた。冨久正二さん。97歳で陸上競技を始め、105歳で引退を決めた最近まで数々の記録を打ち立てた「ご長寿アスリート」だ。冨久さんは国鉄を退職後、長年にわたり「プラザ」を運営する協同組合の事務局員を務めた。以前、取材で自宅を訪ねた際、戦前、戦中からの写真や書類を分類して保管するきちょうめんさに驚いたことがある。

 クリアファイルにとじられたチラシと、撮影日を詳細に記録した写真は閉館前に、多くの人々の半世紀の記憶を呼び覚ました。街の何げない表情を記録し、後世に残すことの大切さを、冨久さんに教えられた。

(2022年4月8日朝刊掲載)

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