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旧理学部1号館の「平和研究拠点」構想 補修検討が本格化

基本計画は進まず 大学連携の先行を模索

 広島市中区の被爆建物、旧広島大理学部1号館に新たな平和教育・研究機関を設ける構想で、市は2022年度、建物の長期的な活用を見据えた補修方法や費用を本格的に検討する。ただ、18年11月の構想発表から3年以上たった現在も整備の前提となる基本計画の策定は進んでおらず、構想実現の時期は見通せない。(明知隼二)

 市によると、22年度は築90年以上が経過した1号館の耐震診断をする。日常的に研究者や学生が出入りする施設として使うために必要な補修の方法を検討。長期間にわたる維持費の試算を進める。22年度一般会計当初予算に関連費2千万円を計上している。

 広島大本部跡地にある1号館に「ヒロシマ平和教育研究機構(仮称)」を設ける構想は、18年11月に市の有識者懇談会で示された。市の要請を受け、広島大平和センター(中区)と市立大広島平和研究所(安佐南区)、同大大学院平和学研究科は1号館への移転が決定している。

 市は教育や研究の内容、概算費用を盛り込んだ基本計画を19年度中に示すとしていたが、いまだに策定できていない。松井一実市長は1月の記者会見で「各研究機関が一体的に機能する必要がある。急がないといけないが、関係者の納得度を高める中身の十分な議論が必要だ」と述べ、策定にはさらに時間がかかるとの見通しを示した。

 ハード整備が見通せない中、大学側はソフト面での連携を先行して探る。広島大の安倍学理事・副学長は「両大学が得意分野を補い合えば、学生により充実した教育を提供できる」とメリットを強調。建物の整備を待たず、オンラインも活用して両大学の単位互換などを早期に導入する方向で検討を進めている。

 一方、両大学の平和研究機関を束ねる運営体制などの議論はまだ進んでいないという。

 市は14年、建物の改修費用として正面棟を部分保存する場合で18億5千万円かかると試算した。建物の劣化は当時より進み、費用は膨らむ見通し。被爆者で元原爆資料館長の原田浩さん(82)=安佐南区=は、市の事業の進め方に疑問を投げかける。「公金を充てるのに市民には動きが見えない。何が課題で時間がかかっているのか、もっと議論の過程を公開するべきだ」と求めた。

旧理学部1号館
 1931年に広島文理科大本館として建設された。鉄筋3階建て延べ約8500平方メートル。爆心地から約1・4キロにあり、外観を残して全焼した。49年の広島大開学で理学部1号館となり、同大の東広島市移転に伴い91年に閉鎖。2013年に市が取得した。市は17年、耐震調査などを踏まえ、E字形の建物のうち正面棟をI字形に保存する方針を決めた。広島大、広島市立大がそれぞれ、平和研究機関を移転させることが決まっている。 (2022年4月8日朝刊掲載)

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