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連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅①

 足かけ10年をかけて地球2周に相当する約8万キロを歩いてきた。「なぜ歩くの?」と世界中で訊(き)かれた回数は数えきれない。

 何をしても中途半端だった。そんな自分と決別するため、何でもいいから一つのことをやり抜きたかった。生きた証しを残したかった。

 私が選んだ挑戦は徒歩の旅だった。中国・上海からポルトガル・ロカ岬まで自らの足でユーラシア大陸を横断する計画だ。ロカ岬にたどり着いたのは580日目のことだった。それなりに手応えを得られたし、自信を持つことができた。もちろん帰国という選択肢もあったが、さらに大きな挑戦をすることを望んだ。

 ここから米国へ渡り、北米大陸を横断、出発の地・上海へ戻れば、徒歩で地球1周したことになるはずだ。北米を歩き始めれば新たな挑戦が頭をよぎる。「地球1周に挑戦するなら、それに相当する4万キロを歩いてみようか」と。豪州大陸を縦断し、東南アジアを経て、上海へ戻ったのは旅立ちから4年半後のことだった。

 出発時27歳だった私は32歳になっていた。久々に会う父の頭は真っ白になり、愛犬イチローは主人の顔を忘れ、敵意むき出しでほえてきた。4年半という時の長さをひしひしと感じた。その後、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸を縦断し、五大陸踏破を果たした。

 10年、約8万キロに及んだ長い旅路。氷点下35度の極寒から50度の酷暑、砂漠に標高5千メートルの峠など、過酷な環境下を歩き続けた。さまざまな出会いがあり、かけがえのない経験を積んだ。時速5キロの旅の絶景をつづっていく。 (よしだ・まさひと 徒歩旅行家=鳥取市出身)

(2022年4月7日朝刊掲載)

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