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連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅②

 総距離1万6千キロ、ユーラシア大陸徒歩横断という計画を立てたものの、楽観できる要素は何一つなかった。日本列島縦断など長期的な徒歩行の経験はなく、体力も人並みである。仕事休みの週末にトレーニングを重ね、1日40キロは歩けるようになったが、毎日継続できるかは不確かだった。

 衣食住の全てを持ち運ぶ必要があるため、荷物の運搬にリヤカーを用いることにした。エアータイヤを使用するが、パンク修理の方法すら知らなかった。初めてパンク修理を試みたのは中国でのことだ。インターネットで修理方法を調べ、半日かけて修理をした。

 カザフスタンの無人地帯では車輪が壊れ、遭難の危機に見舞われた。ウクライナで荷物を盗まれ、極寒のブルガリアでは凍傷を負って入院した。さらには独立間もないコソボでスパイ容疑をかけられ拘束された。今改めて振り返りながら、「ひどい旅だ」と苦笑いを浮かべているが、同時に最も楽しい時期だったなと思う。

 作家の沢木耕太郎氏は著書の中で「旅には旅の生涯があるのかもしれない」とつづっている。私にとって最も冒険的だったのは幼年期から少年期ともいえるユーラシア大陸の旅だった。その後、砂漠や極寒の北極圏、標高5千メートルの峠など過酷な環境下を幾度となく歩いた。しかし、青年期、壮年期を迎えた「私の旅」はそれらを乗り越える術を身につけていた。

 未知の世界に飛び込み、知識や経験を蓄積していく時期は何をやっても面白く、人生を豊かにしてくれる。そんな挑戦心をいつまでも持ち続けていたい。(徒歩旅行家=鳥取市出身)

(2022年4月8日朝刊掲載)

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