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連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅③

 地球2周を歩き、誰よりも地球の大きさを体感しているという自負がある。しかし、世界の広さとは距離的なもの以上に遠くの土地やそこで暮らす人の存在をいかに近く感じることができるかだと思う。世界各地のニュースが報道される度、私はかつて訪れた土地や出会った人たちのことを想(おも)っている。

 10年で58カ国を歩いた。さすがに全ての国の言葉を覚えるのは困難である。片言の英語に身ぶり手ぶりを交え、意思疎通を図ったが、現地語の「ありがとう」だけは覚え、感謝の気持ちを伝えることを心掛けた。

 中国・新疆ウイグル自治区で暮らすウイグル族は中国語を話すことができた。「謝謝」と中国語で感謝を伝えると微笑(ほほえ)んでくれる。「ラフマット」と彼らの言葉でお礼を伝えた時は満面の笑みを見せてくれ、より深く彼らに近づけた気がした。独自の言語を持つ民族にとって言葉はアイデンティティーの一つであり、誇りなのだ。

 そんなウイグル族に対する弾圧問題も新聞で目にする機会が増えてきた。

 そして今、世界中で懸念されているのはウクライナ情勢である。私はこの国で2カ月を過ごし、市井の人の暮らしを垣間見てきた。

 ウクライナではたくさんの出会いを重ねた。何度も激励の声をかけられ、救いの手を差し伸べられた。警察の護衛を受け、歩いたこともある。平和だった頃を知る私にとって決して遠い国の出来事ではない。ウクライナの平和を祈り、出会った人たちのことを案ずる日が続いている。

 いつまでも世界中で出会った人たちを近くに感じていたい。できることなら平和で幸せなニュースとともに。(徒歩旅行家=鳥取市出身)

(2022年4月9日朝刊掲載)

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