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社説・コラム

天風録 『山吹色の涙』

 このところの陽気で、山々では春が駆け足で進んでいる。桜が散り始めたかと思えば、山吹がやや赤みのある黄色の花を付け始めた。万葉の時代から、和歌にも詠まれてきた▲「春はとかく桜に気を取られがちだが、その後には山吹の花を追い掛ける」。染織家吉岡幸雄さんの本にそんな一節がある。いにしえより四季の彩りを身の回りに引き寄せようと、その色に衣を染め、まとったという。山吹色として今も親しまれる▲別名は「黄金色」。ロシアの侵略がなければ、ウクライナの小麦畑は夏、黄金色の穂が波打つはずだった。青色と黄色の国旗が示すのは、澄んだ青空と「世界の穀物庫」と呼ばれた肥沃(ひよく)な大地。原風景をまとわせた国旗に誇りを感じる▲先ごろ、「NO WAR」の横断幕を掲げた約750人が原爆ドームを囲んだ。残虐の限りを尽くすロシアに停戦や反核を迫り、ウクライナの平和を祈るために。山吹色やレモン色の服で参加し連帯を示す姿もあった。「できることは限られるけれど何もできないわけじゃない」。その訴えは涙声になっていた▲豊かな実りをもたらす大地を、砲弾が飛び交う。踏みにじられ、灰色に染まっていくのがやるせない。

(2022年4月13日朝刊掲載)

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