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銀歯原料高騰 治療控え懸念 露のパラジウム供給不安

車排ガス触媒向けも 高値長引く恐れ

 歯の治療に使う銀歯が値上がりし、中国地方でも患者の負担が増している。材料となるレアメタル(希少金属)のパラジウムの主産地がロシアで、ウクライナ侵攻に伴う供給不安から相場が急騰しているため。パラジウムは自動車の排ガス浄化装置にも使われ、需要そのものも増えている。銀歯の高騰が続けば、患者の負担分だけでなく、歯科医院の資金繰りにも響きかねない。(高木潤)

 「40年近く銀歯を造ってきたが、材料がこんなに高くなるとは」。広島市中区で歯科技工所を営む松井哲也さん(59)は驚きを隠さない。銀歯の材料はパラジウムや金、銀などの合金。松井さんの仕入れ値はウクライナ侵攻直前の30グラム9万円弱から、3月上旬には約11万円へと2割上がった。少し落ち着きつつあるが、高値は続く。

 パラジウムの合金は鋳造や研磨に最適で、丈夫なのが特長。広島県内の技工士でつくる県歯科技工士会の会長も務める松井さんは「樹脂など別の素材に切り替えるには、加工機材の導入や技能の習得が必要。すぐには難しい」とみる。

 銀歯材料費の大半は公的医療保険で賄われる一方、患者の自己負担もある。国は銀歯治療の診療報酬を引き上げており、患者の負担額も比例して拡大。松井さんの納入先の歯科医は「以前から銀歯が高いと患者から言われていた。通院を控える患者が出なければいいが」と懸念する。また診療報酬の引き上げは材料費の上昇より遅れるため、歯科医の資金繰りも圧迫する可能性がある。

 国際相場に影響力のある米国市場では、3月にパラジウム価格が過去最高を更新。世界のパラジウム供給でロシアが4割を占め、日本も輸入量の3~4割をロシアに依存している。パラジウムは用途の6割以上が車の排ガスを浄化する触媒向け。価格は環境規制などを背景に5年前の約4倍に達し、高値が続いていた。

 レアメタルに詳しい東京大の岡部徹教授(循環資源・材料プロセス工学)は「ウクライナ侵攻のパラジウム相場への影響は当面避けられない」と指摘。一方で「産業に不可欠な資源で各国の需要がある限り、国際的な流通網が新たに形成される。短期的な高騰は落ち着く可能性がある」としつつ、自動車向け需要から「長期的には高値が続くだろう」とみる。

(2022年4月13日朝刊掲載)

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