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連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅⑤

 さまざまな技術が発達した現代、1日あれば飛行機で世界中たいていの場所を訪れることができるはずだ。スピードや効率が求められる時代に逆らうかのように私は時速5キロの旅を選び、歩き続けた。

 「歩いて旅ができるのか?」と思う人もいるだろう。かつての私もそうだった。歩き旅の前例を調べてみると数人の名前が出てきた。彼らの存在は一歩を踏み出す勇気を与え、背中を後押ししてくれた。

 旅の道中、そんな先人たちと出会うこともあった。チリでは木を植えながら4万キロを歩いた英国人ポール・コールマンと出会った。

 ペルーの砂漠にあるレストランではそこに置かれたゲストブックに26年前の池田拓さんの書き込みを見つけた。すでに他界されており面識はないが、彼もまた私の背中を押してくれた一人である。このような形で私たちの旅が交わることに胸が熱くなった。

 私の旅に関する記事が世界中に配信されたこともある。「君から刺激をもらい、僕も歩き始めたよ」というメールも何度か届いた。「早まるな、冷静になるんだ」と思う半面、背中を後押しできたことがうれしい。彼らの人生を狂わせていないことを願うばかりだ。

 歩き始めて3年目、カナダでジャン・ベリボーという男と出会った。

 11年かけて7万5千キロを歩いた彼と後に約8万キロを歩く私が広い地球上で出会うのだから旅は面白い。会話の中で彼が口にした言葉が頭の中にずっと残っていた。

 「アフリカ・イズ・ビューティフル(アフリカは美しい)」

 アフリカの何が美しいのだろう。その答えを探すため、私はアフリカへ向かった。(徒歩旅行家=鳥取市出身)

(2022年4月13日朝刊掲載)

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