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低空飛行訓練 全国で多発か 岩国移転問題

自治体は情報共有を

 山口県と岩国市が条件とする「沖縄問題の諸条件が整う」前に、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から米海兵隊岩国基地(岩国市)にKC130空中給油機が移転してくる公算が大きくなった。移転後、中四国、九州地方を中心に、全国で同型機の低空飛行訓練が実施される可能性も浮上した。自治体と住民は、移転問題にあらためて注視すべきだ。(編集委員・山本浩司、写真も)

 計画によると、同型機12機が移転する。訓練は海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県鹿屋市)とグアムとのローテーションで展開して行うという。

 訓練内容を一見できる米軍資料がインターネット上にある。1992年に作成され、96年に変更が加えられた時点での「空中給油マニュアル」だ。約130ページ。同型機をはじめ空軍のKC135やKC10など、多様な空中給油機の訓練・運用について説明している。

騒音影響小さい?

 マニュアルは「給油は(残燃料量など問題がない限り)人口密集地上空を避けるべきだ」としている。そのため、訓練は安全性などを考慮して、主に洋上の訓練空域で行われる可能性が高い。つまり、訓練に伴う騒音などの影響は小さいと期待できる。

 だが、同型機のもう一つの任務を考えると、全国の低空飛行ルート下の住民に影響を及ぼす恐れが浮かび上がる。

 本紙の取材に対し、米海兵隊統合報道部は「同型機は空中給油任務のほか、部隊や物資・装備の輸送、戦略的投入、撤退任務も負う」と回答。そのため、他の全ての航空機や搭乗員と同様、即応力を維持するための日常訓練を行うという。

 軍事評論家の前田哲男さんは「部隊や物資・装備の戦略的投入や撤退の訓練には、低空飛行が含まれる。地形的に沖縄でできなかった訓練が、中四国や九州を中心に全国の低空飛行ルートで行われるとみていい」と警鐘を鳴らす。

 岩国移転後、固定翼機との空中給油訓練は同基地配備の航空機と頻繁に行えるため、給油する側、給油を受ける側ともに習熟度は上がる。また、受ける側は訓練空域での飛行時間が従来より長くなる、という「メリット」がある。前田さんは「九州の自衛隊機との間の給油訓練も行われるだろう」とみる。

 加えて在韓米軍基地との物資輸送も沖縄より所要時間が短くなる。つまり、沖縄の負担軽減をうたった同型機の岩国移転は、米軍側に好都合な点が多いことが見て取れる。

裏切られる可能性

 「デメリット」は航続距離の短い回転翼機との給油訓練のためには、沖縄に行く必要があることだけだろう。日米両政府が2014年夏に移転させる方向で協議した背景が、浮かび上がる。

 つまり山口県と岩国市の「移転は普天間移設など沖縄問題の諸条件が整う事が前提」(市基地対策課)という思いは、軍事的観点から裏切られる可能性が強まった。

 「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の坂本千尋事務局長は「米軍にメリットのない移転はありえない。中四国、九州をはじめとする全ての自治体は連携して同型機の訓練内容を国に照会し、情報を共有すべきだ」とし、早急な行動を促している。

(2013年10月27日朝刊掲載)

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