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連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅⑦

 紙地図を頼りに世界を歩いてきた。エチオピアでは1日半も誤った道を歩き続け、変化の乏しい針葉樹林帯が続くカナダでは20キロ逆走したこともあったが、GPSなどなくても何とかなるものだ。

 とある事情があって中米でスマホを手に入れた。その瞬間、私の旅は大きく変わった。

 地図アプリを開けば、どこにいても自分の居場所が分かる。大都市でも道に迷うことなく目的地へたどり着けた。野営地を見つけられないまま日没を迎えた時、「今夜はどこで夜を過ごすのか」と不安や焦りを募らせていたが、スマホを見ればこの先に何があるのか分かる。安心、安全を手に入れた一方、不安や緊張など感受性を失い、地図を読むことをしなくなった。

 インターネットも同じだろう。簡単に答えが導かれ、考えることをしなくなる。人間が本来持つ機能を放棄してしまったかのようだ。旅も人生も簡単に予測できる未来など面白くない。

 昨年、西国三十三所を歩き始めた。地図帳を頼りに目的地を目指していたが、大ざっぱ過ぎて役に立たない。敗北感をかみしめながらスマホを取り出すと、ルートが導かれ、すぐに問題は解決した。

 昔はカーナビなどなかったが、よくもまあ道路地図だけで目的地にたどり着けたものだと感心する。近年は自動運転という言葉まで耳にし始めた。ますます人間の機能が奪われそうだ。

 一度利便性を手に入れると、手放すことが難しいのは確かである。昔ながらの徒歩旅を続ける私としては便利なものは取り入れつつ、ほどほどに付き合っていきたい。(徒歩旅行家=鳥取市出身)

(2022年4月15日朝刊掲載)

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