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核軍縮 停滞浮き彫り 21年 10回目の「ひろしまレポート」採点 英国が最大の下げ

 広島県などでつくる「へいわ創造機構ひろしま」(HOPe)は14日、核兵器に関する36カ国の2021年の取り組みを採点した「ひろしまレポート」を公表した。核弾頭保有数の上限を引き上げた英国が核軍縮分野での評価を最も下げた。始めて10回目となり、核軍縮の停滞や後退を浮き彫りにしている。(宮野史康)

 委託先のシンクタンク日本国際問題研究所(東京)が、核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有を認められた5大国、事実上持つ4カ国、非保有国の27カ国を対象に核軍縮▽核不拡散▽核物質の安全管理―の3分野で採点。満点に対する割合を「評点率」で示した。

 5大国の核軍縮の評価では、英国が核兵器を推定10~30発増やし、情報公開も後退したとして前年比7・9ポイント減の18・8%。初めて保有国トップから転落した。国連総会で日本提出の核兵器廃絶決議に賛成したフランスが1・7ポイント増の21・8%で最高となった。

 米国はロシアと新戦略兵器削減条約(新START)の延長に合意した一方、核戦力の近代化を進めており、0・8ポイント増の14・8%だった。17年に成立した核兵器禁止条約に署名せず評価を下げたが、核兵器の廃棄が進み2年続けて上昇した。ロシアは新STARTの合意で1・0ポイント増の3・7%だった。

 36カ国の最低は北朝鮮で、1・0ポイント減のマイナス9・2%だった。米朝首脳会談で非核化を約束した18年は上がったが、以降は下がり続け、21年はミサイルの発射実験を繰り返した。

 日本は51・2%で変わらなかった。岸田文雄首相(広島1区)は核兵器禁止条約を「核兵器のない世界を目指す上で出口に当たる重要な条約」と表明したが、国際的に大きな影響はないと判断した。17年は禁止条約に署名せず、評価を大きく下げていた。

 県は核兵器を巡る各国の現状を伝えて廃絶議論を喚起しようと、13年3月に、10~12年分のひろしまレポートを初公表した。今回からHOPeが担う。県庁で記者会見した湯崎英彦知事はこの10年を「良い変化はほとんどない」と落胆。「ことしはロシアのウクライナ侵攻で楽観的に考えるのが難しい」と述べた。

露の核威嚇 影響は深刻

 「へいわ創造機構ひろしま」(HOPe)は「ひろしまレポート」の別冊として、ロシアのウクライナ侵攻に関する論考をまとめた。米ロ関係の悪化が核軍縮に深刻な影響をもたらすと強調。担当した日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長は「難しい状況だからこそ、核兵器廃絶の主張を続けるのが大事だ」と訴える。

 論考では、米ロが2021年1月に新戦略兵器削減条約(新START)の延長に合意したにもかかわらず、ウクライナ侵攻により「核軍備管理の進展は少なくとも当面難しくなった」と懸念を示した。

 ロシアの核による威嚇を口実に、核保有を正当化する非保有国が現れる可能性があるとも指摘。侵略防止へ核抑止力を強めるべきだという立場と、核兵器の早期廃絶こそが唯一の解決策だとする立場の間で亀裂が広がっていると分析した。

 広島県庁で記者会見した戸崎所長は、ロシアの侵略が軍縮・不拡散を含むルールや国際的な規範の重要性を明らかにしたと説明。核兵器廃絶を願う被爆地の役割について「主張が反映されにくい状況だが、諦めずにやるしかない」と話した。(宮野史康)

(2022年4月15日朝刊掲載)

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