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連載・特集

[ウクライナ侵攻 被爆地の視座] 広島市立大国際学部 古澤嘉朗准教授(40)

「心の復興」長期支援を

 アフリカ地域を中心に紛争後の平和の構築について特に治安面を研究している。世界各地で紛争は起きているが、ロシアによるウクライナ侵攻は本来、紛争地域の支援を担うはずの大国のロシアが自ら戦争を仕掛けるという特異なケースだ。国連安全保障理事会常任理事国としての自覚はどこに行ってしまったのだろうか。

 両国による停戦交渉は難航している。この戦争の終わり方がその後の復興に直結する。戦況や交渉の行方次第でウクライナ政府の下で進む復興と、ロシアの影響力が強い地域での復興とで性質が異なる二つのシナリオが組まれる。その場合、国際社会のさらなる分断につながる。国際社会が団結して後押ししてきたアフリカとは異なる状況だ。

 平和の構築に向けた戦後復興では、衣食住やインフラ整備など短期的なニーズが優先されがちだ。中長期的なニーズで大切なものの一つは人々が前に進むために必要な「心の復興」。それには記憶の継承が欠かせない。被爆地広島にはそのノウハウが蓄積されている。

 広島市立大(安佐南区)が平和をテーマに毎年開く短期セミナーで2020年9月、被爆者の小倉桂子さん(84)にオンラインで被爆体験を証言してもらった。その時のアフリカ・ルワンダの学生とのやりとりが印象深い。1990年代の虐殺で深い傷を負ったルワンダ。学生の「過去とどう向き合うべきか」という問いに、小倉さんは歴史から学ぶ意義を強調した上で「若者は将来がある。しっかり前に進んで」と呼びかけた。憎しみや怒りという過去だけにとらわれない前向きな小倉さんの姿勢に、学生が多くを学んでいる様子がうかがえた。

 ウクライナでは首都キーウ(キエフ)近郊で多くの民間人が殺害されたと報道されている。言葉にできない悲惨な経験をした人も多いだろう。和平合意が結ばれたとしても、紛争当事者の葛藤がなくなるわけではない。中長期的に紛争の再発を防ぐためには、そこで暮らす人に目を向けることが大切だ。

 戦争後に人々が前に向かおうとする時、時代の背景や住む地域は違っていても、被爆者が語る姿そのものがその人たちに多くの示唆を与えるのではないだろうか。

 停戦合意が結ばれておらず戦況も見通せない。そんな中で戦後復興について語るのは早いかもしれない。一方、国際社会が戦後復興への支援を求められる日は必ず来る。今から準備を進めておくことが必要だ。

 アフリカで多くの戦後復興を見てきた中で共通するのは、トップダウンだけなく、そこで暮らす人々を置き去りにしない長期的なサポートが大切だということだ。国際社会による緊急支援だけではなかなか手の届かないところに、被爆地ヒロシマが果たすべき役割がある。(聞き手は石井雄一)

ふるざわ・よしあき
 81年愛知県生まれ。筑波大第三学群国際総合学類卒。広島大大学院国際協力研究科博士後期課程修了。広島市立大国際学部専任講師などを経て、17年4月から現職。専門は紛争解決論、平和構築論。

(2022年4月16日朝刊掲載)

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