×

連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅⑧

 2018年5月、北極海に面したカナダのトゥクトヤクトゥクという小さな村で旅を終えた。

 目的地に達する度に地球1周、4万キロ、五大陸踏破とハードルを上げてきたが、次の目標は何も思い浮かばなかった。ようやくやり切ったと思えるようになった。

 防寒具やテントなど装備一式、アウトドアメーカーのモンベルから提供を受けていた。そんな縁もあり、旅を終えた現在はモンベルで働いている。1年前、異動により業務が一変した。「こんな仕事無理です」と頭を抱える私に「北極圏を歩く方が大変ですよ」と職場の先輩は笑ったけれど、仕事の方がよっぽど大変であり、私にとっては新しい冒険だ。

 社会復帰した現在も歩き旅は続けている。広島県も度々訪れ、安芸灘とびしま海道、瀬戸内しまなみ海道を歩き、江田島を1周、最近は宮島を歩いた。次は似島を狙っている。

 歩き続けた約8万キロという距離、それに要した10年という年月。数字だけみたら大きなものに思われるかもしれない。しかし私がやったことは目の前の一歩をひたすら刻み続けただけだ。そんな旅を通じ、唯一自信をもって言えることがある。

 「小さな一歩でもそれを積み重ねることで夢や目標に近づける」

 8万キロを歩いた私が最も実感したことだ。疲れた時は休み、道が途切れた時は別の道を探した。人生も同じではないかと思う。例え思い通りにいかなくても、後ろを振り返れば、刻み続けた足跡は確実に残っているはずだ。

 急ぐ必要はないし、誰かと競う必要もない。夢や目標など、それぞれの目的地を目指し、自分のペースで歩んでいけばいい。(徒歩旅行家=鳥取市出身)=おわり

(2022年4月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ