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連載・特集

緑地帯 吉田正仁 世界で最も遅い旅⑥

 地球1周の旅を終えた後、アフリカ大陸縦断を次の目標に定めた。カナダで出会った男の言葉が忘れられなかった。「アフリカ・イズ・ビューティフル」。アフリカの美しさを探すのが旅のテーマだ。

 猛暑のエジプトでは熱中症にかかり、嘔吐(おうと)しながら歩いた。スーダンでは白い民族衣装を着た男たちと共に大皿を囲んだ。褐色の手の中に黄色い手が交じり、料理を手づかみで口に運ぶ。自分の存在が彼らに受け入れられた気がした。

 エチオピアでは子供たちによる「マネー(金をくれ)」攻撃に悩まされた。先住民族が暮らす地域は異世界で常識が覆された。いや、ここでは皆が上半身裸の中、服をまとう私の存在こそ異端だった。

 世界では多くの民族が独自の価値観や常識を持って暮らしている。それらを尊重し合えば争いは消えるはずだと気付かされる。

 野生のキリン、ゾウとも出会った。南アフリカでは強盗被害に遭ったが、喜望峰まで歩き続けた。

 アフリカの旅を終えた後、何が美しかっただろうと振り返ってみた。圧巻のサハラ砂漠、地平線に沈む夕日、色鮮やかな装飾をまとった民族など美しいものはいくつもあったが、「これだ」と納得できる答えは思い浮かばなかった。しかし、あえて挙げるなら人である。

 アフリカは良心に欺瞞(ぎまん)、欲望などさまざまな感情が色濃く漂い、人間らしさがあふれる土地だった。そんな人間の本質もアフリカの美しさだと思うのだ。アフリカは最も印象深く、愛すべき大陸となった。

 「アフリカの水を飲んだものは再びアフリカへ帰る」ということわざがある。いつかまた美しきアフリカに戻る日を楽しみにしている。(徒歩旅行家=鳥取市出身)

(2022年4月14日朝刊掲載)

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