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社説・コラム

社説 サイバー警察局発足 実効性ある国際連携を

 警察庁に「サイバー警察局」と、国の機関として重大な事案を直接捜査する「サイバー特別捜査隊」が今月、発足した。

 深刻さを増すインターネット空間の犯罪に対応するのが狙いである。例えば今年3月、トヨタ自動車の国内の14工場全てが停止に追い込まれた。本社ではなく、仕入れ先が身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウエア」の攻撃を受けたことが発端となった。

 主要企業だけではない。電気やガス、鉄道などインフラへの攻撃も現実味を帯びる。防御に力を尽くさねばならない。

 国が捜査権を持つのは皇宮警察本部以外で初めてで、戦後の警察の在り方を変える転換点となる。戦前の国家警察による人権侵害の反省を踏まえ、捜査は原則、都道府県警が担い、警察庁は政策立案や立法に特化してきたからだ。特別捜査隊は都道府県警の出向を含めて約200人を集めた。権力乱用のないよう適正な運用が求められる。

 サイバー犯罪の発信元はほぼ海外で、被害も世界に広がる。海外では早くから国主導で捜査し、各国の捜査機関が連携してきた。こうした国際的な共同捜査への参加も、狙いの一つだ。

 最強とされるコンピューターウイルス「エモテット」を昨年1月に欧米8カ国が制圧した作戦には、日本は被害がありながら参加できなかった。脅威が増す中、国民の安心安全を守るための選択肢は広げておきたい。

 とはいえ、出遅れを取り戻すのは容易ではあるまい。欧米では相手のシステムへの侵入など日本では認められない捜査手法も使う。他国と信頼関係を築くにも時間がかかりそうだ。実効性ある国際連携を根気強く模索していくしか道はなかろう。

 安全保障との関わりも密接になってこよう。折しもロシアによるウクライナ侵攻では、サイバー攻撃と地上の軍事力を組み合わせた「ハイブリッド戦」が仕掛けられたとされる。

 サイバー攻撃は以前から、軍事と一体で用いる専制国家の関与が疑われる事案が相次ぐ。2016、17年にあった宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究機関や企業を標的とした攻撃は、防衛関連の機密情報を狙う中国の関与が明らかになった。北朝鮮を巡っては、極超音速ミサイルの技術をサイバー攻撃で得ていたとの指摘がある。

 自衛隊も今年3月、部隊の再編成でサイバー防衛隊を発足させた。警察庁との協力や役割分担が欠かせない。

 高い機密性が求められる事案が増えれば、恣意(しい)的な捜査や、個人情報を不当に収集するようなプライバシー侵害の恐れが拭えない。捜査対象は、改正警察法で「国民生活および経済活動の基盤」に対する重大な支障が生じる場合などと規定しているだけだ。曖昧さは否めない。

 この点は国会審議でも指摘され、与野党による付帯決議は「国民の権利と自由を不当に侵害しない」と、くぎを刺している。重く受け止めるべきだ。

 警察庁の担当者はサイバー警察局が特別捜査隊をコントロールするという。しかし内部での監督では心もとない。国家公安委員会が捜査の苦情を受け付けると規定したが、不当な捜査へのチェックが働くのか、疑問が残る。適切に情報を開示し、国民の不安を拭う必要がある。

(2022年4月18日朝刊掲載)

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