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遺品 無言の証人

[無言の証人]赤十字の制帽と腕章

焼け跡で不休の救護

 赤十字の標章が光る群青色の帽子。広島市千田町(現中区)の広島赤十字病院焼け跡で、原爆投下直後から看護学生として救護活動を行った上野(旧姓森本)照子さん(92)=西区=が拾い上げ、保管していた。入学式や卒業式の時にかぶる儀典用だという。

 旧湯来町(現佐伯区)出身の上野さんは当時、広島赤十字病院に併設された救護看護婦養成所の2年生だった。赤痢患者の食事を準備するため、煮沸した食器を手に寄宿舎へ入ろうとした瞬間、がれきの下敷きに。一筋の光を頼りに外へはい出した。

 爆心地から約1・5キロの病院では、医師や看護師たち51人が犠牲となった。そこへ負傷者が連日押し寄せる。15歳の上野さんも腕章を身に着け、入江長生医師らと不眠不休で治療に当たった。

 「薬がないから、リバノールを薄めてガーゼを当てるくらい。死んだお母さんのお乳を探していた赤ちゃんのことが忘れられん」。近くの空き地で遺体を次々に焼いた。「指の骨をレントゲン(エックス線)用の小さな袋に入れて遺族へ返すと、とても感謝された」

 1999年、持ち主の分からない帽子と自分の腕章を原爆資料館に寄贈した。「人間の生命は尊重されなければならない。苦しんでいる者は、敵味方の別なく救われなければならない」―。世界共通の赤十字の原則だ。「ウクライナで戦争が起きよるでしょ。戦争はなくならんにゃいけん」。長女の渡部朋子さん(68)が思いを継ぎ、平和活動に力を注いでいる。(桑島美帆)

(2022年4月18日朝刊掲載)

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