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社説・コラム

社説 緊迫する朝鮮半島情勢 日韓の連携強化 不可欠

 朝鮮半島情勢を巡る緊張が、ここにきて高まりつつある。

 北朝鮮の核・ミサイル開発の加速が、何よりの原因だ。おとといには「新型戦術誘導兵器」の発射実験に成功したと、北朝鮮メディアが報じた。前日に日本海へ発射された2発の飛翔(ひしょう)体を指すとみられる。

 戦術核の搭載に向けたミサイルの開発だと、北朝鮮側は主張する。今まさにロシア軍がウクライナで使うことも懸念されている、局地戦向けの核兵器だ。まだ不明な部分もあり、日本政府は慎重に分析している。

 世界の関心はウクライナ侵攻に集まりがちだ。その隙を突いて北朝鮮が7回目の核実験、とりわけ戦術核の技術的検証のための実験を強行するのでは、との見方が強まっている。それを前にした新たなミサイル実験の内容が本当だとすると、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が言及した戦術核の開発や先制核使用の能力を、より具体的に示したことになる。由々しき事態である。

 北朝鮮は3月に強行した米本土を狙える新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験により、核実験とICBM試射の一時停止(モラトリアム)措置を一方的に覆した。その後も時計の針を逆に戻すかのように、非核化に背を向ける姿勢をエスカレートさせている。標的として想定する米国、直接にらみ合う韓国にとどまらず、国際社会全体への威嚇なのは明白だ。

 一方で、新型戦術誘導兵器なるものの政治的な狙いも、冷静に見極めておきたい。

 普通に考えれば、きのう始まった米韓の合同軍事演習へのけん制だろう。今回は実動訓練はなく、コンピューターシミュレーションによる指揮所演習だというが、北朝鮮は強く反発して中止を求めていた。また米国の原子力空母などが海上自衛隊との共同演習のため日本海に展開したことにも、神経をとがらせているようだ。

 米バイデン政権はトランプ前大統領時代と比べて北朝鮮問題への関心は高くなく、北朝鮮が求める経済制裁緩和などの交渉に応じるそぶりはない。強引な手段で米国の目を向けさせたいのも本音かもしれない。

 合同演習中の今月25日には朝鮮人民革命軍の創建90周年を迎える。核実験があるとすれば、そちらに合わせる恐れもある。あるいは、北朝鮮に強い姿勢を示す尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国次期大統領の5月10日の就任式にぶつけてくる可能性もなくはない。

 北朝鮮はウクライナ侵攻を巡ってロシアを擁護し、協力を深めているとも伝えられる。核技術のやりとりも、ないとはいえまい。国際社会は深刻なウクライナ問題に向き合う中であっても、朝鮮半島情勢への目配りを怠ることは許されない。

 その中で急がれるのが日韓の関係改善だ。尹政権の対日政策はまだ読み切れないが、現政権より対話に前向きなのは間違いない。現に政策協議の代表団を近く日本に送るという。

 バイデン大統領も5月下旬に予定する訪日に先立ち、韓国を訪れる方向で調整している。歴史問題など岸田政権が譲れない部分はあるものの、対北朝鮮では日米韓がこれまで以上に手を携える必要があろう。核実験の再開を、さらには戦術核の開発計画を思いとどまらせるよう包囲網を強化したい。

(2022年4月19日朝刊掲載)

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