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連載・特集

知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態 分断の国 忍び寄る放射能 セルビア南部 

大半の砲弾が地中に 「すべての除去は不可能」 民家のそばにも落下

人体への影響を科学者は懸念

 ユーゴスラビア第二の都市ニーシュから、ガイド兼通訳者のニコラ・ボジノビッツさん(25)とともに、車で人口約六万五千人のブラニエ市へ向かった。マケドニアへの主要道路を南へ百十五キロ。国立の保健研究所は市中心部にあった。

 「セルビア南部のこの一帯では、少なくとも三、四千個の劣化ウラン弾が投下されている」。二階会議室で、直接調査に当たった物理担当のミロスラブ・シミッチさん(32)が、こう切り出した。コソボとの境界など危険な場所や、ジープでしか行けない難所の調査はできておらず「実数はこれよりはるかに多い可能性が高い」と指摘する。

穴だらけの平原

 ビデオなどでシミッチさんら同研究所の調査活動について説明を受けた後、彼と、「安全」のために同乗してくれた陸軍大佐(56)の案内で、劣化ウラン弾が実際に使われたレージャン村を訪ねた。

 ブラニエから南西へ約二十キロ。人口数百人の農村地帯にあるこの村は、セルビアにありながらイスラム教徒のアルバニア人が平穏に暮らす、今ではほとんど見かけることができなくなった共存地区である。

 戦時下、約四万人のユーゴスラビア軍が周辺に駐留したという村の丘で車を止める。見晴らしの利く丘の向こう五キロ先は、マケドニアとの国境である。

 「ほら、ここに続いている穴は、すべて劣化ウラン弾でできたものだ」。車から降り、しばらく平原を歩くと、直径十センチ余の穴がいたるところにあった。七連の機関砲を装備したA10戦闘機は、一分間に千個以上の三〇ミリ砲弾を発射する能力があるとされる。戦車などの金属に命中しなかった劣化ウラン弾は、そのまま地中一・二~一・五メートルに埋まったのだ。

 「木などで作った戦車のダミーをたくさん配備していたからね。戦車と間違えて猛攻撃を加えたのだよ。中には民家のすぐそばに落下したのもあったよ」とシミッチさん。

 この辺りの劣化ウラン弾は軍が既に取り出した。そのいくつかは、特別に遮へいした容器に収め、研究所の地下に保管されていた。

 「実際にどれだけの劣化ウラン弾が戦車やトラックなどの標的に命中して煙霧状の微粒子になって大気中に飛び散ったかは、はっきりしない。大半は大地に埋まっているのは確か。でも、それらをすべて捜し当てて掘り出すのは不可能だ」と、シミッチさんは言う。

医師と共に調査

 ニーシュに戻った後、劣化ウラン弾が使われたセルビア南部などで土壌の放射線レベルを調べたゴラン・マーニッチさん(41)に会った。職業関連健康研究所の放射線部門のチーフ。これまでに約五百の土壌サンプルを測定したという彼は、ノートを広げて説明した。

 「劣化ウラン弾が埋まっているすぐそばの土壌からは、最高一キログラム当たり二三五〇〇〇ベクレルのウラン238を検出している。一秒間にこれだけの原子が崩壊しているということで、部分的にはチェルノブイリ事故で汚染された地域などの放射能汚染レベルと変わらない」

 マーニッチさんによれば、劣化ウラン弾が大量に埋まったままの地域では、土壌汚染に伴う作物、家畜、地下水への影響、そして食物連鎖による人間への影響も考えなければいけないという。

 「われわれは今後、医師らと協力して注意深くその影響を見守っていくつもりでいる。ニーシュや首都のベオグラードなどもミサイルなどで大きな破壊をこうむったけど、放射性物質は幸い検出されていない」とマーニッチさん。

 彼が最も心配するのは、大量の劣化ウラン弾が使われたコソボ地域での影響である。だが、対立したままの現状では「われわれがコソボへ出かけて調査することはできない」と、表情を曇らせた。

(2000年7月7日朝刊掲載)

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