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社説・コラム

社説 ウクライナ避難民支援 「鎖国」政策 国は改めよ

 紛争や迫害で祖国を逃れた人に、日本はしっかり手を差し伸べる国となるべきだ。

 ロシアの侵攻を受けたウクライナ避難民を念頭に、岸田文雄首相は「準難民」制度の創設に意欲を示した。難民として認定されなかった人にも政府が手厚い保護をするためという。

 日本が人道支援を強めることには賛成だ。ただ難民と準難民、避難民の違いがはっきり示されたわけではない。政府はまずは丁寧に説明すべきだ。

 既にウクライナ国民の1割を超す500万人近くが国外避難した。近隣諸国は受け入れに手いっぱいなのだろう。日本にも政府専用機の20人を含め700人近くが入国している。

 政府は、ウクライナの人たちに身元保証人がいなくても特例で入国を認め、希望があれば就労も可能にした。生活費や医療費を支給し、日本語教育や就労費用も負担する。過去の事例と比べ、破格の対応と言える。

 ただ、政府は全員を避難民という扱いにとどめている。ウクライナのケースは紛争から逃れてきただけで、難民条約の「母国から迫害を受けている」事例に当たらないという理由だ。

 国が保護責任を負う難民に対し、避難民には法的な保護の根拠がない。日本で暮らす生活も安定しない恐れがある。

 難民条約に加わった1982年以降、日本が難民として受け入れたのはわずか841人。他の先進国の難民認定率は数十%なのに、恒常的に1%を下回る状況が続いている。

 祖国に戻れない人に手を差し伸べるのが難民条約の本旨のはずだ。日本の難民認定基準は厳し過ぎると言わざるを得ない。

 政府が「難民鎖国」と批判される従来基準を変えず、準難民制度でお茶を濁そうとしているのなら国際社会の信頼は得られまい。難民認定を他国並みに柔軟化する取り組みが先決だ。

 難民条約の解釈は締約国間で大きな差がある。他国はシリア内戦など同様のケースでも多くの難民を受け入れ、支援してきたことを直視すべきだ。

 日本はこれまでも難民認定されなかった人に、わずかながら在留を特別許可している。特別許可と準難民を今後どう整理するのか。準難民と認められなかった場合はどうなるのか。準難民制度を在留特別許可の看板の掛け替えにしてはならない。

 気になるのは、昨年廃案になった入管法改正案を再提出する動きがあることだ。改正案には難民申請を2回までに限定、3回目以降は手続き中でも申請者を送還できるなどの人権軽視のルールが盛り込まれていた。

 国連人権理事会の特別報告者も「国際的な人権基準を満たしていない」と再検討を求めた法案だ。準難民制度にかこつけて改正案を再提出することは誠実な対応とはとても思えない。

 日本は70年代以降、小舟で漂着したインドシナ難民を、家族を含めて受け入れた。ミャンマー難民を日本に招く「第三者定住」も続けている。それでも保護した難民・避難民は累計1万5千人である。シリア内戦だけで44万人もの難民を受け入れたドイツとは雲泥の差がある。

 世界がグローバル化する中、難民問題はさらに増える。日本も制度を抜本的に見直すべきだ。おざなりの対応では「難民鎖国」は解消できない。

(2022年4月20日朝刊掲載)

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