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広島出身画家 地元から光 靉光や丸木位里 功績を再評価 漫画・冊子に

 広島県出身画家の画業を地元の視点から捉え直す動きが進んでいる。北広島町の住民らは町教育委員会から委託を受け、洋画家靉光(あいみつ)(1907~46年)の伝記漫画を作成。広島市安佐北区では日本画家丸木位里(01~95年)の足跡をたどる冊子が生まれた。ともに古里とのつながりに光を当てる。(福田彩乃)

 漫画は「マンガふるさとの偉人 靉光」(B6判、114ページ)。07年に北広島町壬生で生まれた靉光が、地元の伝統芸能や商家のびょうぶ絵などに触れながら育つ幼少期を描く。その後、大阪を経て24年に上京した靉光が創作に悩んで幾度か帰省したエピソードに焦点を当てる。古里で丸木位里らと交流し、自分なりの画風を探ったと紹介する。

 やがて靉光は、シュールレアリスムの代表作「眼のある風景」(38年)や自画像の連作を発表し、近代日本洋画に大きな足跡を残していく。漫画では、美しい壬生の風景を言い表そうと見つけた言葉「靉靆(あいたい)」が雅号の由来になったという逸話も盛り込んだ。靉靆は雲がたなびくさまを意味し、地元の城山からの眺めに想を得たという。

 町内で長年ギャラリーの運営に関わる石井誠治さん(73)が原案を、石井さんが経営する会社のスタッフの坪郷絵美さん(27)が作画を担当した。2人は、かつて靉光と親交のあった地元住民の遺族らに取材を重ね、美術の専門家たちの監修のもとに仕上げた。東京のB&G財団から300万円の助成を受け、北広島町教委が2千冊を発行。販売はしておらず、町立図書館に置いたほか地元の学校に順次送る。

 石井さんは「これまでの靉光の評伝や研究は、主に上京後の活躍に着目したものが多い」と指摘。「靉光の感性は壬生で育まれ、古里が支えとなって独自の作風を築けたのではないか。地元あってこその画業だ」と力を込める。

 地元の視点から出身画家の歩みを見直す取り組みは、広島市安佐北区安佐町飯室でも進む。住民と広島大の学生たちが連携し、飯室出身の丸木位里の軌跡を調査。寺のふすま絵など古里に残る作品の数々を撮影し冊子(A5判、16ページ)に収めた。冊子は地元の学校などに加え、原爆資料館(中区)にも配った。同館の情報資料室で閲覧できる。

 冊子作りに関わった広島大の多田羅多起子准教授(44)は「位里と交流のあった人たちが高齢化し、個人の持つ資料が散逸する恐れもある。今回調査できた意義は大きい」と強調する。「地域で継続的に顕彰しているかどうかが、作家の今後の評価を左右する場合もある。功績を地元で見直し、伝え継ぐことが重要だ」と話している。

(2022年4月20日朝刊掲載)

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