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連載・特集

[ウクライナ侵攻 被爆地の視座] 大阪大名誉教授 黒沢満氏(77)

核軍縮進める契機に

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く今、核軍縮の体制は壊れかけている。被爆の実態を訴え続けてきた被爆者も少なくなる中、核超大国の米ロ間では中距離核戦力(INF)廃棄条約が2019年に失効した。昨年延長にこぎ着けた新戦略兵器削減条約(新START)の残る期限もあと4年ほどに迫っている。体制を構築し直すためにも、この戦争を早期に終わらせることが必要だ。

 8月に予定される核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、加盟国の一つであるロシアは非難を免れない。今回の戦争が終わっていたとしても、政治的な決着がついているかも分からない。同会議で核軍縮の合意や最終文書をまとめるのは難航が予想される。

 核戦争の緊張が高まった1962年のキューバ危機を思い出してほしい。63年に米国やソ連、英国は部分的核実験禁止条約(PTBT)に調印。70年にはNPTが発効するなど、キューバ危機の後に、各国が核軍縮の方向に進んだ。ロシアのプーチン大統領が核兵器使用を示唆するなどした今回の戦争も、同様の契機にすることが大切になる。

 そのためには、米国をはじめ保有国は核軍縮への取り組みを仕切り直す必要がある。米ロ英仏中の核兵器保有五大国の首脳は1月に「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」との共同声明を発表した。この声明に基づいた「具体的な行動」を起こすべきだ。

 日本政府は保有国と非保有国の「橋渡し」を掲げているが、保有国の米国にかなり寄っているのが現状だ。橋渡しを担いたいのであれば、中立的な立場を取る必要がある。例えば、批准していない核兵器禁止条約について「批准できるよう努める」との宣言などをするべきだ。

 また、日本政府は、保有国の為政者たちが被爆地を訪れるようにも努めるべきだ。核の威嚇が起きる非常に危険な状況に陥っているからこそ、原点に立ち返る必要がある。軍縮を研究し続けてきた私にとっても、大学入学前に平和記念公園(広島市中区)を訪れた経験は大きい。

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)の被爆地開催やバイデン大統領の訪問などを、ぜひ実現させてほしい。そのためにも、被爆地広島から国際社会に声を上げ続けてほしい。(聞き手は小林可奈)

くろさわ・みつる
 45年大阪市生まれ。大阪大大学院法学研究科博士課程修了。NPT再検討会議日本政府代表団顧問、日本軍縮学会初代会長などを歴任。専門は軍縮国際法。

(2022年4月21日朝刊掲載)

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