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社説・コラム

社説 来年のG7サミット 広島開催 機運高めよう

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)が来年、7年ぶりに日本で開かれる。核兵器も戦争もない世界を訴え続けてきた被爆地広島での開催が有力だと報じられている。実現すれば、平和への強いメッセージを国際社会に送ることになるはずだ。

 折しも世界は、ロシアによるウクライナ侵攻や核兵器使用をちらつかせた脅しに揺さぶられている。危機感が高まっているからこそ、広島開催となれば、その意義は大きい。核兵器の脅威と平和の重要性を再認識するきっかけにできるからだ。

 広島は岸田文雄首相の膝元である。だから「地元びいき」で選ぶわけにはいかない。あくまで、なぜ、そこで開くかに重きを置いて決めねばならない。

 開催地には名古屋市なども名乗りを上げている。中でも福岡市は宿泊施設が充実し、空港が都市部に近く、警備面の優位性もあって候補に残っている。

 広島は、岸田氏が外相だった2016年にG7外相会合が開かれた実績を持つ。広島と長崎に原爆を投下した米国の現職大統領による初の広島訪問にもつながった。何より、開催に値する理由が十分にある。

 松野博一官房長官は「現時点では何ら決まっているものではない」と説明するものの、タイムリミットは2カ月後に迫る。6月下旬にドイツで開かれる今年のサミットまでの決定が、求められている。調整は大詰めを迎えているのではないか。

 広島に決まれば、核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有が認められている5カ国のうち、3カ国の首脳が被爆地を訪れることになる。いずれも国連安全保障理事会の常任理事国の米国、英国、フランスである。

 仮に広島開催となれば、原爆被害の実態を伝えるため、原爆資料館の見学や被爆者の証言を聞く機会も準備しておきたい。核兵器が人間や街に何をもたらすか、いかに非人道的か。焼け野原から復興した広島の地に立ち、五感で首脳たちに知ってもらうことができるだろう。

 広島開催に期待する声は、被爆者たち以外からも聞かれる。「世界に向けて非戦のメッセージを発信する大きな意義がある」と、対人地雷とクラスター(集束)弾の禁止条約の制定にも関わった目加田説子中央大教授は強調する。核軍縮の誠実な交渉を義務付けたNPT第6条に、保有国が立ち返るよう強く促すことにもつなげたい。

 気になるのは英国とフランスの反応だ。広島開催に異論を示しかねないからだ。というのも例えば英国は昨年、あろうことか、核弾頭保有数の上限を引き上げる方針を明らかにした。バイデン米政権が「核なき世界」を唱えたオバマ氏の路線を引き継いでおり、広島開催にも理解を示しそうなのとは対照的だ。

 だからこそ、思い出したい。米英仏だけでなく、ロシアや中国も含めた五大国は今年初め、核戦争回避を最重要課題とする共同声明を発表した。「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」とまで述べている。

 核戦争は人類の自滅につながることを踏まえた共同声明だろう。その重みを保有国に改めて認識させることが必要だ。第一歩として、来年のG7サミットの広島開催で、米英仏首脳の被爆地訪問を実現させたい。

(2022年4月21日朝刊掲載)

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