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社説・コラム

[A Book for Peace 森田裕美 この一冊] 「六にんの男たち―なぜ戦争をするのか?」 デビッド・マッキー作、中村こうぞう訳(偕成社)

「平和」求めていたはずが…

 「どの口が言うのか」。そう感じた人も多いだろう。「ウクライナで起きていることは疑いなく悲劇」だと、戦争を仕掛けたロシアのプーチン大統領が先日会見で述べた。頭の片隅に「戦争は悪」との認識があるからこそ、口をついて出た言葉だと、せめて信じたい。

 人と人が殺し合う戦争を「善」と考える人は少ないはずだ。なのになぜ人間は戦争を繰り返すのか―。

 1975年に刊行され、半世紀近く読み継がれる本書は、そんな根源的な問いに迫る絵本である。

 作者は「ぞうのエルマー」シリーズで知られる英国の絵本作家デビッド・マッキー氏(今月6日、87歳で死去)。風刺漫画でも活躍しただけに、細やかな線画で描く物語には、ユーモアと皮肉がにじむ。

 とある6人の男たち。平和に暮らせる土地を探し、せっせと働く。だが財を成すと不安になる。せっかくの蓄えを誰かに盗まれやしないか、と。そこで番兵を雇う。ところが泥棒は現れず、番兵は暇を持て余す。

 目を付けたのは隣の農場だ。兵隊を使って乗っ取り、富を得る。男たちはもっと強くなりたいと兵を増やし、やがて強大な軍事力を持つ支配者に。

 ある日、鳥を射損ねた矢が川の向こうへ。攻撃だと勘違いした対岸の兵が反撃を始め…。

 平和を求めていただけのはずなのに、疑心暗鬼や欲望が軍備を太らせ、戦争を招く―。絵本がコミカルに伝える「人間の愚」は、絵本の中のファンタジーだと言って済まされない。

 他者との間に線を引き、自分や味方だけ守るのが「平和」なのか。戦争を回避するにはどうすべきか。短い物語が、さまざまに思考を紡がせてくれる。

これも!

①アルバート・アインシュタイン、ジグムント・フロイト著/浅見昇吾訳「ひとはなぜ戦争をするのか」(講談社学術文庫)
②デビッド・マッキー作/なかがわちひろ訳「せかいでいちばんつよい国」(光村教育図書)

(2022年4月25日朝刊掲載)

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