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連載・特集

[ウクライナ侵攻 被爆地の視座] 福山市立大 大庭三枝准教授(57)

幼い子に現実伝えよう

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の憲章前文には「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とある。お題目で終わらせてはいけない。今こそ幼児期からの平和教育に力を入れる必要がある。

 幼い子も今、報道を通じてウクライナの戦況を目撃している。何より大切なのは過ちを繰り返さないための種をまくこと。子どもにとって戦争やその背景を理解するのは難しいかもしれない。けれども、異なる主張の人たちがどうやったら握手し、相手も尊重できるかを考えていけば、将来の蛮行を防ぐ一歩になる。

 以前、ゼミ生と共に被爆者の証言を基にした紙芝居の制作に取り組んだ。日常を不条理に奪われることに「ノー」と言えるように、「100年先まで残る教材にしよう」と意気込み、今も読み聞かせ活動を続けている。米国への憎しみや報復という考えを増幅させなかった被爆地広島、長崎には平和を訴え、構築する力があると信じている。

 日本委員会の理事として参加している世界幼児教育保育機構(OMEP)を通じ、ウクライナの深刻な状況が私の元にも届いている。赤ちゃんを抱えながら銃を持つ小児科医、爆弾が降る中地下鉄の構内で出産を余儀なくされた妊婦…。

 悲惨な出来事は、年齢に応じた伝え方がある。紙芝居を制作した際も葛藤があった。生々しい表現にするか、間接的な描写にするか。後者を選んだが、被爆者からは「原爆は地獄。こんなもんじゃない」と不満が出た。しかし、子どもが「見たくない」と思ってしまえば、伝わるものも伝わらなくなる。

 ウクライナで起きていることも、本質のメッセージを変えない伝え方を大人たちが考える必要がある。子どもたちが「なぜ」「どうして」と聞いてきた時には、自分なりの考えを答えることが大人にも求められる。遠い国の話だと傍観していては駄目だ。

 紛争の人権侵害は容赦なく子どもたちに襲いかかる。ウクライナの子どもたちは今、生存権が脅かされ、成長する権利も教育を受ける権利も奪われている。深刻に受け止め、日本の子どもにもこの現実をそれぞれが工夫して伝えなくてはならない。(聞き手は猪股修平)

おおば・みえ
 65年、福山市生まれ。筑波大大学院博士課程単位取得満期退学。専門は幼児教育。フランス・トゥール大大学院教育科学研究科で学ぶなどし、11年4月から現職。被爆樹木が題材の紙芝居の読み聞かせ活動が評価され19年、OMEPの「ESDアワード」を日本人として初受賞した。

(2022年4月24日朝刊掲載)

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