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社説・コラム

社説 マクロン大統領再選 極右勢力の伸長に懸念

 フランス大統領選は、決選投票で現職のマクロン氏が再選を果たした。現在の欧州連合(EU)議長国であり、先進7カ国(G7)の一つとしてウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁をけん引する。外交姿勢が維持されることに欧米諸国や日本は胸をなで下ろしていよう。

 5年前の決選投票でも対決した極右政党、国民連合(RN)のルペン氏と接戦を展開する、との見方もあったからだ。ルペン氏はEUよりも自国第一だと唱え、イスラム教徒のベール制限を掲げるなど排外主義が色濃い。さらには親露派として制裁強化には異論を唱えていた。仮に当選していたら国際社会の結束が相当乱れていただろう。

 マクロン氏にとって手放しに喜べる開票結果ではない。得票率は約59%でルペン氏との差は約17ポイント。前回の差の約32ポイントより縮まった意味は重い。20年前に大統領選に挑んだルペン氏の父の得票率が20%に満たなかったことを考えれば極右勢力の伸長は明らかだ。6月の国民議会総選挙に向け、波乱の芽は残る。

 マクロン氏は5年前、伝統の共和、社会両党と異なるスタンスの中道政党、共和国前進(REM)を率いて大統領に就く。若き指導者の1期目を評価する声が、国際社会では高い。

 英国のEU離脱に伴う企業移転の受け皿となったほか、新型コロナウイルス対策ではロックダウンを重ねた。ウクライナ侵攻を受け、初期段階でプーチン大統領と直接対話しつつ、EUにはロシア産石油の禁輸に踏み込むよう求めるなど硬軟織り交ぜた手腕を発揮した。

 一方で、国内ではかなりの不満が募っていたのだろう。例えば大気汚染対策のための燃料税引き上げ問題だ。就任2年目に法案を提出したが、車に頼る地方の人たちの反発を招き、反政権デモが拡大して撤回した。

 大統領選も、こうした流れを映したのではないか。第1回投票はルペン氏のほか急進左派候補の善戦を許し、左右双方からの批判票を浴びた格好だ。「金持ち優遇」とのそしりもある経済政策の恩恵が及びにくい中間層、低所得者層のしっぺ返しだったのかもしれない。

 加えてロシアへの経済制裁の余波で物価上昇を招き、選挙を前に国民生活を直撃したことが想定外の争点となった。ルペン氏はその点を攻撃し、地盤とする失業率が高い地域で票を伸ばしたようだ。マクロン氏勝利は中道路線への支持もさることながら、反「極右」の消極的な支持に助けられたともいえる。

 2期目の5年間、欧州の大国のかじ取りをどう担うか。国内では幅広い層の声に耳を傾け、選挙戦で深まった世論の分断を埋める姿勢が求められよう。

 外に向けては各国と連携してロシア制裁の継続とともにプーチン大統領に停戦を強く求めてもらいたい。2024年のパリ五輪のホスト国として、平和の祭典のために何ができるかも考えておかなければならない。

 フランスは核保有5大国の一角をなす。ウクライナ侵攻で浮き彫りになった、核兵器の人道に対する脅威も直視すべきだ。来年は先進7カ国首脳会議(G7サミット)で来日が予定される。岸田政権は広島で開くことも検討中だが、マクロン氏は開催地がどこだとしても被爆地を訪れる決断をしてほしい。

(2022年4月26日朝刊掲載)

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