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連載・特集

憲法と核兵器 <中> 元自民党幹事長 古賀誠さん

9条堅持し平和希求を 「理想実現 政治の役割」

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、自民党は一層の防衛力強化を求める。その流れで安倍晋三元首相(山口4区)は日本の領土に米国の核兵器を置き、共同運用する「核共有」政策を一時提起した。原爆の惨禍を教訓に生まれた非核三原則を揺るがす事態に、「ハト派の重鎮」は危機感を示す。

 元自民党幹事長の古賀誠さん(81)。伝統派閥・宏池会の前会長だ。戦火を知る者として広島、長崎の惨状が忘れ去られたかのような議論を憂う。「国際的な緊張が高まると、『保守の右』の人はこれまでも、そう動いてきた。一番心配したことが起きている」

 原爆で多くの尊い命が奪われ、深い反省の下に今の憲法は生まれた―。そんな思いが古賀さんの胸に募る。「核戦争には勝者も敗者もない。全人類が終わりを迎える」。今こそ再確認するべき真理だと訴える。

 最も届けたい相手は、宏池会を託した愛弟子でもある岸田文雄首相(広島1区)だという。「平和をもっと語ってほしい。被爆地広島の選出なのだから誰も文句は言わない」。かねて、そう注文してきた。

 安倍氏らが提起した核共有政策を「政府として検討しない」と即座に退けた岸田首相の姿を「非核三原則を掲げ踏みとどまった。平和を守るのが政治家の仕事。一番大事な点を守った」とたたえる。「あまり岸田さんを褒めることはないのだが」と言い添える。

 平和を希求する古賀さんの信条は生い立ちが深く関係する。開戦前年の1940年に福岡県に生まれた。4歳の時、父がフィリピン・レイテ島で戦死。戦後、行商で生活をつなぐ母の背中を見てきた。「戦争で夫を亡くし、苦労した母のような人を二度と出すまい」と政治家を志した。

 67年、参院議員秘書に就くと憲法を頭にたたき込んだ。政治家を目指す以上、憲法を学ぶことが不可欠だと考えた。中でも9条には「戦争の反省と非戦の決意が込められている」。80年に衆院初当選。「9条を守り次代につなぐのが使命」との思いで行動してきた。

 国連平和維持活動(PKO)への自衛隊参加を可能にした92年のPKO協力法の採決では「9条に針の穴もあけてはいけない」と議場を退席。イラクに自衛隊を派遣する2003年の特別措置法の採決でも「米国が根拠なく始めた戦争だ。大事な自衛隊をなぜ出すのか」と議場を去った。

 ウクライナ情勢を受け、自民党はことし4月、敵基地を攻撃する能力を「反撃能力」と改称し、防衛費を大幅に増やすよう岸田首相に提言した。専守防衛に反するとの批判が与野党から上がる。古賀氏は「軍拡競争が始まったら戦時に戻る。外交以外に平和を保てない」と信じて疑わない。

 今こそ、憲法の平和主義を重んじてきた宏池会の出番だと感じる。池田勇人氏や宮沢喜一氏ら宏池会の歴代首相が掲げた「9条堅持」を継ぐことに岸田政権の価値があると思う。「理想論だと言う人もいるが、何が悪い。理想を実現するのが政治の役割だ」(口元惇矢、樋口浩二)

(2022年5月1日朝刊掲載)

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