×

社説・コラム

『潮流』 変容する米軍基地

■岩国総局長 岩崎秀史

 最近よく耳にするデジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル技術を駆使して人々の生活をよりよい方向に変革すること。基になった動詞のトランスフォームを辞書で引くと「一変させる」とある。

 こちら、米軍のトランスフォーメーションは継続中なのだろう。米軍再編と訳されることが多いが、再編の語感では収まりきらない動きが岩国基地(岩国市)で相次いでいる。

 約60機の空母艦載機が米軍再編に伴って厚木基地(神奈川県)から移り、極東最大級の航空基地となったのは4年前。さらに、近年にない基地の運用が続いている。

 海兵隊や海軍に加えて空軍の戦闘機も飛来し、基地所属機と訓練を繰り返す。昨年からは、強襲揚陸艦など海軍の大型艦船が相次ぎ寄港するようになった。台湾有事をにらんだ中国とのせめぎ合いによる変容だと軍事の専門家はみる。

 その結果、岩国市が昨年度に測定した、大声を出さないと会話できない程度の騒音が3万回を超え、基地の滑走路が1キロ沖合に移される以前の水準に戻りつつある。基地周辺の住民は爆音訴訟の第2次提訴へ向けて動き出している。

 「基地が機能強化される歴史が繰り返されている」。訴訟に関わってきた元市議の田村順玄さん(76)は、危機感をあらわにする。

 沖縄県の地元紙、琉球新報の報道本部長が先週、岩国市内で講演し、投げ掛けた言葉が耳に残る。「基地負担が強化されると標的にされ、有事に巻き添えを食う危険が飛躍的に増大する。沖縄だけでなく岩国も標的になっているかもしれない」

 岩国基地は在日米軍基地で唯一、滑走路と港湾施設が隣接し、機能性は高い。今後の国際情勢によっては軍事拠点化が一層進み、市民生活への影響が広がることも懸念される。行方を注視しなければならない。

(2022年5月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ